Komachi 10


 一一月の学祭まで夢のような日々が続いた。


 バンド経験者のムトーさんをリーダーに私達は走り出す。


 三ヶ月しか練習期間がないのでおじさんの知り合いの古いスタジオ(商売を畳む予定)を格安で借りて練習に励んだ。スタジオが借りられない時はムトーさんの提案でネットカフェのシアタールームに集まり木枯らし君やタロ君の成果を眺めたり、バックドロップ幕のデザインを決めたり、演出について話し合ったりと毎日のように顔を合わせた。木枯らし君とタロ君がバンドと学業に追われるので舞美さんは臨時で短期のバイトを雇って店を回す。木枯らし君の特待生の座を守る為に専属家庭教師を引き受けるタロ君はホールに出られない。そんな時は私がバイトに入った。


 美容室で働くムトーさんも極力時間を作ってくれた。……私達お気楽な高校生とは違って稼いだお金で生活する大人なのに、美容室のバイトをこっそり減らして私達に手を差し伸べてくれた。自分の店を持つ夢を追いかけ、資金を貯めているのに……愚痴一つ溢さず、いつもフワフワ笑ってリーダーを担ってる。そんなさりげない優しさに気付き皆んなでムトーさんに手を差し伸べる。木枯らし君は少しでも上達しようと寝る間を惜しまず自主練し、タロ君は通っていた床屋からご近所のおば様御用達の美容室『ジーラ・ジーラ』に乗り換えムトーさんを指名する。舞美さんは賄いを余分に作りムトーさんに持たせ、私は時折焼いたお菓子を食べて貰った。


 じっとりと湿った空気が肺を満たし逆さ吊りになって水底に沈むような夏の晩、私はムトーさんと二人でスタジオを後にした。木枯らし君とタロ君は用事があるらしい。住まいはかなり離れているのにムトーさんは快く送ってくれた。


 七つ星のワッペンが貼られたギグバッグを背負うムトーさんはフワフワ笑う。


「おー。お嬢とサシだ。二人で帰るのは初めてだね。どうぞお手柔らかにー」


「店じゃよく話すのに、初めてですよね」


「ジロじゃなくてごめんね?」夜道をフラフラ歩くムトーさんは口元に手を添えて囁く。


「な、なに言ってるんですか!」頬がきゅうっと熱くなる。


 ムトーさんは『うしししし』と歯を剥いて笑う。


「恋する乙女は綺麗だから分かるって。こんな俺で良ければさり気なく応援するよ?」


「そんなんじゃないですよ」


「うそーん?」ムトーさんは私の顔を覗き込む。流石美容師さん。こだわりのいいシャンプーの香りがフワッと香る。


「本当です。……木枯らし君が好きでしたけど、ヴァレンタインで振られましたから。今はタロ君やムトーさんと同じく大切なメンバーの一人です」


「うそーん。ジロ、見る目ねぇなー」ムトーさんは溜息を吐いた。


「そんな事ないですよ? 木枯らし君はウララちゃんって素敵な女の子に片想いしてるんです」


「うそーん!?」


「本当ですって。放送部の看板キャスターで誰もが振り返る綺麗な女の子なんですよ。私の大切な親友です」


「うーん……本当? マジディ・マジキュリー?」ムトーさんは私の顔を覗き込む。


「マジーン・マジモンズ。ウララちゃんはとっても明るくて優しくて目が覚めるような美人で物怖じしない素敵な女の子ですよ?」


 ムトーさんは夜空に向かってカラカラ笑ったかと思うと、額に手を当てて眉を下げる。


「これは強敵だ」


「そりゃそうですよ。ウララちゃんですもん。勝ち目はないです」


「ま、いいや。それよりもジロのパートなんだけど……」


 夜道を歩きつつ、ギター経験者同士のベースとドラムで会議しているとコンビニが見えた。ムトーさんが買い物をしたいそうなので私もコンビニに入る。時間潰しにファッション誌のメイク記事を読んでいるとビニール袋を提げたムトーさんに肩を叩かれた。


「お待たせ」ムトーさんは満面の笑みを浮かべる。いつもフワフワ笑ってこっちまで楽しくなる。私、ムトーさんのそういう所好きだな。


「何買ったんですかー?」


「ビールでしょー餃子でしょーメンマでしょー揚げ鶏でしょー」ビニール袋の中を覗くムトーさんは歩き出す。閉じた雑誌を元の場所に戻した私は『ちゃんとサラダ買いましたか?』とムトーさんが背負うギグバッグを追った。


 ムトーさんが買ってくれたアイスキャンディを齧りつつ夜道を歩く。『もっと野菜食べて下さい』『餃子に白菜とニラが入ってるよ』『冷製サラダや野菜炒めも注文して下さい』と話しているといつの間にか門前に着いた。


「あ、家ここです」


 ライトに照らされた黒い門の前で立ち止まると、家を仰いだムトーさんは『うそーん……大きなお洒落門のある豪邸』と某動物家族の人形玩具のように呟く。


「海外のデザイナーさんの門ですけど奥は普通の家です。四方が壁に囲まれているのでオモチャじゃないです。ちゃんと住めます」


「オモチャって……お嬢は時々斜め上にぶっ飛ぶよね」ムトーさんは失笑する。


「え?」


 意味が分からず小首を傾げていると『なるほどね。これは気苦労多いなぁ』とムトーさんは腹を抱えて笑った。


「お嬢はやっぱりお嬢だなぁ」ムトーさんは私の髪をクシャッと撫でた。


「もー。何ですか、さっきから。バカにしないで下さい」


 眉を下げているとムトーさんはヘラッと笑う。


「うしししし。可愛いな、お嬢は」


「おだてても何も出ませんよ。出るのはベロだけです」下瞼を人差し指で引っ張りあっかんべーと舌を出す。


「うしししし。かーわいー」


 なんだか可笑しくなり門前で二人笑い合っていると、コツリ足音が響く。音の方を見遣るとジーンズに綿シャツを着たパパが帰ってきた。ラフなスタイルだからおじさんの店に顔を出していたんだね。


「パパ! お帰りなさい!」


 パパは私を見下ろすとにっこり笑った。ただいまのハグをすると『コマチちゃん、そちらは?』とムトーさんを見遣って問う。眉が少し下がり気味。……耳ばかりか眉や目の下唇、首筋にピアスが咲いている男の人が門前にいたらお堅いパパはちょっと構えるよね。


 いつものフワフワでフラフラな雰囲気は何処へやら、ムトーさんは直立不動していた。ヤだ。緊張しないで。パパはただのおじさんです。


 ムトーさんは頭を掻き、ビニール袋をカサリ鳴らしてヘラッと笑う。


「どうも初めまして。メンバーのお嬢さんにはバンドでお世話になってます。ロックバンド『小林中国餐厅チャイニーズレストラン』の……」


『小林』と聞いただけでパパの目の色が変わる。


「君が小林か」パパは眉間に皺を寄せる。


「え? あ、いや」


「早く帰りなさい。こんな時間まで年頃の娘を連れ回すんじゃない。分別のない男だ。コマチちゃん、家に入るぞ」私の肩を引き寄せたパパは指に力をぎゅっと入れる。


 ……まさか、パパったらムトーさんを木枯らし君と勘違いしてるの?


「パパ、違うの!」慌てて私はパパに取り縋った。


「入るぞ!」


「違うの! 振られたからもう何でもないの! それにこの人は」


 白眼に血管を血走らせたパパは私の話を遮る。


「可愛いコマチちゃんを振っただと!?」


 寺門に控える仁王像みたいに顔を真っ赤に染めてパパは憤慨する。そんなパパを抑えようと私は縋り付いていたがいつのまにか私の腕をパパは強く掴んでいた。パパが怒り狂う理由に見当もつかないムトーさんは『お嬢さんが困ってます。抑えて下さい』と鎮めようとするが、手を思い切り振り払われる。


 ムトーさんが提げていたビニール袋が宙に舞う。ビニール袋から飛び出た缶ビールやお惣菜が放物線を描き、中身がライトに照らされたアスファルトにぶち撒けられた。ムトーさんはパパの暴挙に茫然自失している。そんなムトーさんをパパは怒鳴りつける。もう頭に血が昇って何言ってるのか聞き取れない。


 こんなパパ見た事がない。嫌だ。こんなパパ見たくない。


 目と鼻と喉の奥がじくり痛くなり、頬に涙が伝う。


「パパ、やめて! 違うって言ってるでしょ!」夜一〇時過ぎの住宅街に憚る事なく、私は叫び、縛から逃れようと身を捩る。それでもパパは聞く耳を持たない。


 すると騒ぎを聞きつけたママが家から飛び出てきた。


「何!? どうしたの!?」


「パパが……! パパが木枯らし君と勘違いして……!」パパの腕を振り解いた私はママに泣きつく。


 こめかみに血管を浮かせ怒り狂うパパを見遣り、茫然自失のムトーさんを見遣ったママは、ぐっと息を吸うとパパの頬を思い切り平手で打つ。乾いた音が夜空に響く。


「いい加減になさい! 娘が泣いてるでしょ!」


 ママの叱咤にパパは固まった。


「娘を泣かしたのはあなたよ?」


 頬を腫らしたパパは涙を浮かべる私を徐に見遣り、肩を上下に揺らして呼吸するママを見遣ると項垂れた。


 長い溜め息を吐いたママは『ほら……入りましょう?』とパパの背に手を添え、家へ上がらせた。


 パパとママが姿を消すと一帯は静けさを取り戻す。


「……ごめんなさい、ムトーさん」


 私の声に我に返ったムトーさんは『……へ? あ、ああ』と辺りを見回す。


「驚かせてごめんなさい。嫌な所見せてごめんなさい。お惣菜ごめんなさい」


「あ、ああ。ちょっとびっくりしたけど、だーいじょぶ、だいじょぶ。……お嬢は怪我なかった?」ムトーさんは私の顔を覗く。


 こっくり頷くとムトーさんはヘラッと笑う。


「そりゃ良かった」


「ムトーさんも怪我はないですか?」


「俺? だーいじょぶ、だいじょぶ。驚いてフリーズしただけ。……もしかして彼氏と勘違い? そりゃご尊父も顔面ピアスまみれマンが愛娘の彼氏なら嫌がるだろうなぁ」


「……ムトーさんを木枯らし君と勘違いしたようです。木枯らし君が入院した時に私、お見舞いに行って……そこで私が木枯らし君の事を好きだって思ってるみたいで……何でもないのに」


 ムトーさんは頭を掻くと呟く。


「前途多難だなぁ」


「……パパ、私と親しい男の子をあまりよく思ってないみたいで……」


「うそーん。お嬢のご尊父、昭和の親父っ! 『コマチが嫁に行くのは俺が死んでからっ!』『必殺卓袱台返しっ!』『やめてー! あなたー!』」ムトーさんはうししししと笑う。


「……笑い事じゃありませんよ?」


「……うん。そうだね。不謹慎でした」


 頭を掻いたムトーさんは腰を屈めると、アスファルトに中身がぶち撒けられたお惣菜や凹んだ缶ビールを拾う。


「やめて、私が拾います!」慌てて屈んだ私もお惣菜を拾う。


「いや、買ったの俺だし、ご尊父を驚かせて超人ご尊父にしたの俺だから」ヘラヘラ笑うムトーさんは空のビニール袋に汚れてダメになったお惣菜を入れる。


 埃まみれの餃子を掴んでいるとまた目の奥がじわじわ熱くなって痛くなる。ムトーさんが楽しみにしていた餃子が……楽しかった帰り道が……私の所為で全て台無しになった。バンドまで台無しになったらどうしよう……。またスローンに座れるのに……折角素敵なメンバーと楽しく活動しているのに……居心地のいい場所ができたのに……。


「本当に、本当にごめんなさい」


 洟を啜る私にムトーさんは前腕で私の頭を軽く叩く。


「お嬢が謝る事なんて一ミリもないんだからさ。ホント、気にしてないから。誰にも言わないから安心してよ。何かあれば気兼ねなくリーダーの俺に相談してくれよ。ヘラヘラ笑って頼りなさそうだけど年が上な分、結構タフなんだぜ? だから、明日も明後日も……いや、学祭までみんなで突っ走ろうぜ?」


「ムトーさん……」


 ムトーさんはダメ押しのようにヘラっと笑う。そんな優しさが嬉しくて辛くて私は子供のように泣き出してしまった。




 パパが乱心してから二日後の晩、練習を終えてスタジオのエントランスで木枯らし君に『送るよ』と声を掛けられた。しかし私は首を横に振った。先約でムトーさんと一緒に帰るから。


「んまー、振られちゃったのー。可哀想ねぇ? まーだお家教えて貰えないのー」タロ君は木枯らし君の頬を突つく。


「うるせぇ」木枯らし君は歯を剥く。


「タロちゃんが慰めてあげるのよー?」


 唇を窄めたタロ君は木枯らし君の胸に飛び込む。木枯らし君は『うわ。やめろ! やめて下さいっ!』とキスを迫るタロ君を押しのける。タロ君を押し返す度に木枯らし君が背負ったギグバッグから下がるアザラシの赤ちゃんのキーホルダーがブラブラ揺れる。……本当に仲良いなぁ。戯れ合ってとても楽しそう。こんな光景、私はいつまで眺めてられるんだろう。……あの晩からパパと話していない。顔を合わせるのが怖い。『バンド辞めなさい』『バイト辞めなさい』って言われそうで。それでも顔を合わせなきゃお話ししなきゃって……昨日は『おかえりなさい』を言おうと帰宅を待ってたけど、深夜を過ぎてもパパは帰らなかった……。私、どうすればいいの?


 眉を下げて二人を眺めているとギグバッグを背負ったムトーさんに肩を叩かれた。


「お待たせ。行こっか?」


 こっくり頷き、二人に『また明日、バイトでね』と手を振る。タロ君は『ちゃおちゃおなのよー』と笑顔で手を振り返し、木枯らし君は『アニキ狡いっ!』と唇を尖らせた。


 階段を降り、自販機で買い物し夜の繁華街を歩く。


「うしししし。ジロに『狡い』って言われちゃったよー。役得役得ぅ」フラフラ歩くムトーさんは自販機で買った缶コーラ片手に笑う。


「きょ、今日もごちそうさまです。ありがとう御座います……」買って貰ったサイダーを私は両手で包み込む。


「やっすいサイダーや氷菓でも丁寧にお礼言ってくれるんだからお嬢は育ちがいいなぁ」


「今日はどうして二人で?」


 缶コーラを呷ったムトーさんは盛大なゲップを吐く。


「おあ。失礼。……その後が心配ってのもあるし、話しておきたい事もあるからさ。ほら、俺、これでも一応リーダーだから。スケベ心全くないから安心して。メールじゃ何だし、帰り道ならいいかなって。ジロに我慢させちゃったけどね」


「心配かけてごめんなさい」


「いや、発端は俺だし、お嬢ってばメチャクチャ凹んでたからさ。ずっとショボーンって。タロもジロも顔と口には出さないけど心配してた」


「ごめんなさい……」


 ムトーさんは頭を掻く。


「新さんとはあれから顔合わせた?」


「いいえ……」


「だろうね。寂しがってるよ。『パパが世界で一番好き』って抱きしめてあげなよ。悲しい酒やってたぜ?」


「え……悲しい酒?」


 ムトーさんはヘラっと笑う。


「実はさ昨晩帰宅したら、部屋の前で新さんが佇んでてさ。うわ張り倒されるって、提げてた餃子の袋背に回して身構えたら、先日の事で頭めちゃくちゃ下げられてさ。『気にしないで下さい。そりゃこんなスーパーチャラいマンが大事な娘の彼氏かよって思ったら塩撒いて追い返しますって。改めまして、ロックバンド小林中国餐厅のリーダー武藤七星でっす』って名乗ったら、ご丁寧に名刺渡されちゃったんだよね」


 サイダーの缶をぎゅっと握りしめる。お詫びと挨拶するのに名刺渡すのは仕方ないけど……距離が出来ちゃうな……。メンバーで紅一点だからタロ君や木枯らし君、ムトーさんみたいに戯れ合えなくて寂しいのに。


 視線を足元に落としているとムトーさんは軽く肩を叩く。


「だーいじょぶ、だいじょぶ。新さんのお仕事オフレコオフレコ。俺とお嬢の間にはそんなん関係なっし。二人とも未来永劫仲良しバンドメンバーでっす。おっけ?」


 ムトーさんは私の顔を覗く。『仲良し』って思ってくれてるんだ……嬉しいな。こっくり頷くとムトーさんは歯を剥いてにっかり笑う。


「でさ『昨日のお詫びに』ってドイツの瓶ビール五ケースも戴いちゃったんだよね……。凄くいい銘柄の。車で持って来てくれたみたいで。ごめんね。友達の手前そーゆーモン受け取ったらダメって分かってんだけどビールの誘惑には流石のシチセーは勝てませんでした。不甲斐ないっ」


「ふふふふ」ビールに負けちゃうなんてムトーさんらしい。


 思わず笑みが溢れる。ムトーさんは悪戯っぽく笑う。


「ビール戴いてホクホクしても新さん平謝りでさ、安アパートの廊下だし収拾つかないし、小汚い部屋に上がって貰ったんだ。デパートで買っただろう高そうな靴下を綿埃で汚させて申し訳なかったよ。んで、話してる内に意気投合してさ、そのままビールで乾杯して小林の餃子二人で食ったんだよね。『車でいらしたのに何やってんすか』って大爆笑。新さん、モリモリ食ってたなぁ『美味い美味い。世界一美味い』って」


「もー、パパったら」ムトーさんの晩御飯横取りして。


「それから色々話してさ、バンドや店でのお嬢の事、小林青年の事……まるで家庭訪問に回った先生みたいに話したよ。新さん真剣に聞いてた」


 ふわー……私の事色々話しちゃったんだ……恥ずかしい。パパ、何て思っただろう。


 頬を染めているとムトーさんは自らの唇に人差し指を掲げる。


「こっからはオフレコ。酒が進むと、新さん目頭押さえてね『娘がどんどん離れていく。寂しい』って耐えてた。子供が離れていくのは当然なのにね。離れなきゃ自立できないもんな。本来なら喜ぶべき成長を……親ってワガママだよなぁ。赤ん坊の時は『健やかにね』とかあっさりした希望しか託してないのに、成長につれ『もっと賢くなれ』だとか『そんなカッコで出歩くな』だとか『ショパンコンクール出ろ!』だとか色んなモン押し付けてくるからなー。誰よりも幸福になって欲しいって気持ちは有り難いけど、親心って子供にしてみれば面倒だな」


「そうですよね……。大切にされてるって感じます。パパの気持ちは嬉しいけど、息苦しい事も多いです」


「この間は娘への愛が有り余って暴挙に出ちゃったけど、新さんはちゃんと心得てるから。『見る目のない小林青年が可愛い可愛いコマチちゃんを振った』って事に怒心頭なだけで『バンド辞めろ』とか『バイト辞めろ』とか思ってないから安心して」ムトーさんはヘラヘラ笑った。


「良かった……。仲間でいられる……」


 胸を撫で下ろす私の隣で苦笑を浮かべるムトーさんは頭を掻く。


「新さんって結構自由な人だよね。昨日はあのまま飲み散らかして寝ちゃってさ……俺、今のアパートに移って他人泊めたの初めてだよ。彼女お持ち帰りした事すらないのにっ」


「ふわーっ! すみませんっ!」


「大丈夫。手は出してないから」ムトーさんはカララ笑った。

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