どのように生きるか ☆
「それは、難しい問題ですね。ご本人にしてみたら、回復の見込みがない状況で意識が失われ、もう二度と戻らないとなったら、延命治療を行わずに、自然な経過に任せて、死を迎えさせて欲しいと言うのは、まともな考え方だと思います。ただ、ご家族にしてみたら、それを受け入れる、と言うのは簡単な事ではありません。ましてや、貴方はまだ若い、若すぎる…… たとえ生命維持装置によって生かされているのだとしても、生きている事に変わりは無い。目を醒ます事は無くても、生きているという現実によって、救われるご家族もある訳ですから……」
日焼けした恰幅の良い医師が、汗ばんだ額を輝かせながら穏やかな口調で話す。
彼が言いたい事は分かる。
しかし延命治療を続ける事で家族に掛かる負担は大きいと思うし、何よりもベッドの上でいくつもの管に繋がれ、機械によって生かされている自らの姿を想像すると息苦しくなってくる。
それにそんな姿が家族の記憶に焼きつき、これまでの思い出が上書きされてしまうのでは無いかと思ったら、胸が爛れたように痛み出す。
心臓の状態が悪化していると告げられた日、僕は担当医と二人きりで話をした。
この日が訪れる事は覚悟していた。
そしてその時が来たら尊厳死について、医師に相談しようと決めていた。
「ご家族に、貴方の意思を伝えておく事は良いと思います。リビングウィルという形で残しておく事も出来ます。ただし最終的な決断はご家族に委ねられる事、そして貴方の思いを聞いたご家族は、貴方の意思を尊重すべきか、ご自身の気持ちを優先すべきか決断を迫られる事になります。貴方の意思が、ご家族の気持ちに寄り添うものであれば、それが一番良いのですが……」
愛する人達の顔が脳裏に浮かんだ。
始まりがあれば、終わりも必ずある。
この世界に生まれた日があるのだから、この世界から去る日も必ずやって来る。
死を受け入れる覚悟は出来ているつもりだが、何を残せるのかを考え始めると答えが見つからない。
それでも意思は伝えておくべきだと思う。
どのように死んでいくか、という事は、どのように生きるのか、と同じだと思うから。最期の瞬間まで精一杯生きる為にも、ゴールは自分で決めておきたい。
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