第54話 九死に一生、死中躍進
ここでいきなりだが、リザルトを発表しようと思う。
期間は1週間。アンダーウッドから王都までの中間地点での結果だ。ルートは全てが危険区域。時たま村による時のみが安息の時。全てが鬼畜もといリタリカの采配である。
ではいってみよう。
まずはエグジム。
気絶10回。
魔物討伐14匹。
盗賊捕縛10人。
盗賊討伐0人。
剣の扱い練習1000回/日。
過酷な訓練とは母からの容赦ない課題により、日に2回の気絶を記録。流石糸使いというだけあり、盗賊捕縛は十人を記録したが、命のやりとりまではまだ踏み込めなかった。
ちなみに盗賊は遭遇したら生死問わずに無効化を奨励されている。
1日千回の素振りとスパーリングにより、なんとなくバトルシザーもとい「凪ぎ鋏」(リタリカ命名)の扱いに慣れてきた様子。
次にミーファ。
気絶5回。
魔物討伐17匹。
盗賊捕縛6人。
盗賊討伐5人。
魔力凝縮訓練倒れるまで/日。
リタリカの愛の鞭による気絶があったものの、魔物討伐は順調に進んだ。傭兵をやるだけあり、初日は難しかったものの盗賊討伐も何とか行えたようだ。
そのあとリタリカが優しくメンタルケアをしていた。
彼女は魔法に器用さはないため、威力と精度の向上を目的として、魔力凝縮訓練がリタリカより課された。
そのお陰か、見た目はあまり変わらないものの火魔法の火力と爆発力が増し、魔力消費が少なくなったようだ。
そしてレミ。
気絶3回。
魔物討伐18体。
盗賊捕縛8人。
盗賊討伐6人。
魔力制御訓練逃亡数3回。
ミーファと同様、傭兵になった時点で覚悟は完了していたのだろう。盗賊討伐も慣れてきたら何とかこなせるようになってきた。それでもメンタルのストレスは大きいのか夕飯時にはエグジムの頭を撫で回してお姉さんムーブをしていたが。
レミは炎と氷の2つを扱えるため、リタリカとしては氷の後輩ができたと張り切っていた。2つの相反属性を使いこなすためには魔力の制御技術が必要不可欠。故にリタリカのスパルタ魔力制御訓練が課された。それがどういったものか不明だが、7日で3回も逃亡を試みるということは、それだけ辛い訓練ということだろう。
しかしお陰で2つの属性を同時に発動できるようになったのだから、彼女としてはプラスであろう。
というわけで、辛い訓練を乗り越えて辿り着いたのはアンダーウッドと王都のちょうど中間にある街。
いや、街というには規模が小さいか。しかしかなりの賑わいがある活気にあふれた町である。
なんにせよ、ようやく人がいるところで眠れる安心感にリタリカ以外の三人が崩折れそうになる。
「ほら、まだまだですよ。宿に着くまで頑張らないと」
「はぁ〜い……」
何とか返事を帰すミーファ。無言のエグジム、レミ。
返事をしたミーファとて、なかば意地で言葉を返しただけの様子。
ここまでの苦難がよく解ろうというものだ。
「はいはい4人ね。夕食付きで銀貨4枚だ」
「高いですね……銀貨2枚が妥当では?」
「……なら銀貨3枚」
「馬車置き付きでなら」
「商売上手だねアンタ。いいよそれで。まいどあり」
チャリンと硬貨がカウンターで跳ねる。
リタリカが支払いを終え、部屋が確保される。
エグジム親子で1部屋、女子2人で1部屋。
部屋はここです。そう案内された瞬間リタリカ以外の3人は部屋へ、ベットへと倒れ込んだ。
「夕飯は……もう寝ちゃったか」
すぐに寝息を立て始めた3人に優しい笑みを浮かべるリタリカ。外見がいかに若くとも、それは子を持つ母の表情。
「おやすみなさい、夕飯で起こすか迷うわね……」
結局、食べるものは食べろとリタリカに起こされるまで、気絶したように眠る3人だった。
私はダニエル、勇者である。
勇者という名の捕虜である。
そして現在フリーダムである。
「あーーこれよ!」
その辺で拾った木の枝に、川で獲った魚を突き刺し火で炙ったもの。シンプルだが美味い。美味すぎる。
口に広がる野生的な味わいを噛み締めながら、ダニエルは今朝までの自身を振り返っていた。
王城に囚われ、もとい招かれ早1週間。
ダニエルに限界が訪れていた。
もともと木端貴族の三男坊、育ちなんて平民に近い。
やれお着替えだ、やれお食事だ、やれ毒味だ。
何事においてもお世話され、シャツ一枚まで介助され、はては食事も直では食べられない。
たまるストレス、募るもどかしさ。構わないでくれ、それが本音だった。
幼馴染のバカ2人と森で狩った獲物を捌いて、適当に焼いた肉を齧りあったのが恋しい。
何故着替えにメイドが2人も付くのか。1人で……いや、1人とて不要だろう。
たまに廊下で見るフリルの化け物だったり装飾品の展示スペースが歩き出したような奴だったり……なんだか理解に苦しむファッションをしている奴らは補助が必要かもしれないが……自分はシンプルな服を好むのだ。ズボンとシャツのみ装飾品なし。着けるとすれば剣帯くらい。自分でやって数分で終わる。むしろ助けがある方が遅いのだ。
何度も断ろうと思った。いや実際断った。
そしたらどうだ、至らないところがあったかと、メイドさんたちが暗い顔をするのだ。
えっ、俺が悪いのか? と途端に不安に襲われる。
しかも此方がオロオロしてると「申し訳ありませんでした」と儚げに笑うのだ。
もうそうなったら返事は決まっている。「いえ、やっぱり手助けお願いします」これしかない。返した途端にイキイキと仕事をしだすメイドさんにお礼を言いつつ「これでいいのか……」と自問自答するが、それしか選択肢はないのだ。メイドたちに罪はない。
しかしまずい。このままでは。
ダニエルの進路希望は「実家の兄たちの手伝いをしながら平民に下っての自由な生活」だ。
このままでは真逆になってしまう。あとシンプルに居心地悪い。
メイドさんたちが若くてかわいいのも居心地悪い。実家のメイドさんなんて母親と同年代やぞ。どう接しろと。
地元でもつるむのは男ばかり、女子に免疫などない。
土台無理なのだ。無理無理。
なにが勇者だ上流階級だ王に謁見だ。こちとら中身はほぼ平民だぞ。
最初は良か……いや良くないか。良かったと回想くらいはしようかと思ったが、勇者になった最初から監禁スタートだった。
上手い飯も冷めたら台無しだ。毒見など知ったことか、せめて飯くらいは美味いの食わせろ、勇者やぞ。
いやどの辺が勇者なのか、そもそも勇者という存在自体ピンと来てないが。
勇者……字面的に勇気ある者か。
そういえば村一番の美少女と有名だったアンネの胸を事故とはいえ鷲掴みにしたことあったな……。
その時は強力なビンタを貰ったあと、仲間内だけになった時に密かな賞賛を受けたっけ。
「もしかしてあれが勇者の原因か!?」
確か友人のノブから「お前勇者だな!」と肩を叩かれた記憶がある。
そうか、あれだったか……。
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「……ん?」
「どうされました、聖女様?」
「今勇者様が不快かつ見当違いのことを考えておられる気がしまして」
「あら。もう仲良しですね」
「婚約者ですからね! でも何か変な予感がするので、様子を見てきますね」
「本日の礼拝は終わっておりますので、どうぞ聖女様」
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考えれば考えるほど、自分は平民である。
実際の血筋としては貴族の三男だが、あり様がどうしようもなく平民なのだ。
こんな場所(王城)になどいてはいけないのだ。
さてどうしたものかと窓の外を見ていた時、ダニエルはふと気が付いた。
自分の部屋が崖と森に面していることに。
実際にダニエル様に配された部屋は単純に大きく、森であろうと中庭であろうと見ることが出来るVIPルームであるのだが……ダニエルに重要なのは綺麗に整えられた芸出的な中庭ではなく、大きく広がる城下町でもなく、王がいる荘厳という言葉を体現したかのような本城でもない。
一角だけ森に面してしまった小窓と、高い天井から床まであるカーテンだ。
繰り返すがダニエル、中身は活発な野生児である。
部屋の窓はせいぜい三階ほど。木のクッションも期待でき、良い長さのロープ(カーテン)もある。
つまりは、逃走可能ということだ。
数分後。
昼食の伺いに来たメイドが見たものは、開け放たれた窓と、取り外されてベッドの足に結びつけられたカーテン。
そしてテーブルの上の「お世話になりました」とだけシンプルに書かれたメッセージカードのみだった。
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