第31話 救援と事後の……

「ぐっ……がふ、ごほっ……」


据えたにおいのする薄暗い洞窟内に突如魔力の光が満ち、かと思えば急速に引いていく。

後に残ったのは、苦悶に表情を歪めた中年の貴族。

しっかりと整えられていただろう白髪交じりの髪は、まるで強風にでも煽られたかの如く

見る影もない。


「くそ……平民風情が……」


もう少しだった。もう少し準備が整えば都市を落とすこともできた。

存在意味もないゴミをあと何人か生贄にし魔力を貯め、ついでにゴミの女を苗床に兵力を補填したら……もうすぐだったのだ。


しかし結果はこのざま。研究施設も所在がばれ、控えていたゴブリンも無事ではすむまい。

魔力の保存先を研究施設とは別に設定していたことが不幸中の幸いだが、それでも手痛い。


「やはり……上手くはいかんか、忌々しい」


けほっ……少しの血の味が口内に広がる。

上手くいかない、どうにも上手くいかない。いつもそうだ。上手くなんていかない。

いつだってそうだ。だが、認められるわけがない!


「まだだ、まだやれることはある……!」


粛清はならなかった。

しかし、せめてあいつだけでも、あの忌々しい辺境伯だけでも。


「殺すっ……!!」




夜のとばりが落ち、月と星の明かりのみを頼りに動く深夜の街。

酔客がたまに座り込んで寝ており、巡回の騎士が保護する以外は変化のない

静寂に愛された時間となるはずだが……この日はまるで昼間のような喧騒が支配していた。


「掃討戦を急ぎなさい! 女性騎士は被害者の保護を最優先で!!」


まるで男性のように短く切られた金髪を松明の火に照らし、騎士団副団長のオルフェリアが激をとばす。

場所は都市下水に通じる通路の前。平時ならば好き好んで出入りする人もいないこの場所に、アンダーウッドの

守護を任されている騎士たちが集結している。

連れ出されているのは誘拐されていた人たちか、下水から断続的に聞こえてくるゴブリンの悲鳴に体を強張らせ、

救助した騎士に縋りつくようにして仮設された救護所に搬送されていく。


「10人はいかないようだが……こんな人数の少年少女が捕まっていたとは。失態だな」

「仕方ありません……とは言いたくはないですが、ご自身を責める必要はありません、副団長。事前に防げるものは少ないものです」

「わかっている。ほとんどが事後対応になることは。しかしやりきれん」


地下水道では複数存在していたゴブリンを騎士たちが次々に追い込み切り捨てている。

まるでネズミの追い込みだと顔をしかめながら、オルフェリアは隙をついて下水から逃げ出してくるゴブリンを切り捨てた。


「どのくらい完了した」

「はっ! およそ半数くらいです!」


間髪入れずに上がる報告に、眉を顰める。

すでに処理したゴブリンは50を超える。それで半分など、いったいどれだけ大量のゴブリンを潜ませていたのか、都市の地下に!


「節穴にも程があるだろう……これは警備体制を根本から見直す必要があるな」

「ですね……下水道などは盲点でした」

「過去に検査したのは?」

「二年前です」

「ほかにもそのような場所があるやもしれんな……警備隊の巡回経路を根本から見直して団長にも具申するとしよう」


飛び出してきたゴブリンをさらに三体、瞬間で切りすてる。


「副団長! 大方の掃討終了しました!」

「ご苦労! これより内部調査を行う! まだ敵勢力が隠れているやもしれん、ゴブリンと決めつけずに油断することなく調査を行うこと! では始め!」

「「「はっ!!」」」


先行して掃討戦を行う騎士より安全確保のほうが届く。これより調査の時間だ。

事後処理になったからには細部まで調べつくしてやる。


「副団長」

「よし、我々も行こう。この場はほかの騎士を呼び固めろ。以降は下水内立ち入り禁止に指定する。現場保護を指示しておいてくれ」

「はっ! 了解いたしました」


傍らの副官が部下に指示を飛ばしているのを聞きながら、オルフェリアは不気味な入り口を松明で照らされた都市下水を見やる。

今回、自分たちでは所在を突き止めることはできなかった。通報がなければ、どうなっていたことか。


(知らせてくれた傭兵の少女には感謝せねばな)


さらに飛び出してきたゴブリンを間髪入れずに切り飛ばし、指示出しの終わった副官を連れて地下へと降りる。


「どんな些細なものでも見逃すな! 調査はじめ!」

「「「了解!!」」」


せっかく通報してくれたのだ、主犯格とその目的、証拠資料など余さず入手してやろう。そのうえで公正な裁きを与える。

それこそが、事後処理の対応しかできなかった自分たち騎士の、せめてもの責任であると思いながら。



一方、救護テントにて。

救助された少年少女が医療騎士により診察を受ける中、エグジムはベットから立ち上がることができずにいた。

とはいえ何も拘束されているわけではない。ただ、小さな手が少し、彼の服を摘んでいるだけだ。


「うぅ……ぐすっ」

「怖かったな、よしよし」

「ふえぇ……」


その手は2つ。2人の少女。

下水から脱出して数十分、治療を受けてる間も受け終わった後も自分のそばから離れない幼馴染たちに、エグジムは若干遠い目をしながらも一生懸命に慰めていた。

2人とも庶民として派手さはないものの、素朴で素直な美貌を持つ少女たちだ。商店街の若者の中には狙っているものも多い。

救護テントの中は今、嫉妬が渦巻いていた。


(ヤバいな……これ、闇討ちされそう)


この誘拐事件で出張った市民は多い。

というか、むしろ商店街総出の勢いだ。

そんな彼らだが、行方不明になった少年少女が見つかったと聞き、居てもたってもいられずに救護テントへと押しかけた。患者の近くで騒ぐなと弾かれてたが。

しかしその中には逃げ出すゴブリンを数人で袋叩きにした剛のものもおり、そんな彼らの中には傷を負い救護テントのお世話になる者も……。

故に見てしまうのだ、この惨劇(モテ男)を。


「くそっ……俺らの天使が……」

「なんであいつばかり……」

「俺がもう少し遅く生まれてりゃ……」

「呪……呪……」


血涙を流さんばかりの状況とは、きっとこういうものだろう。八百屋の倅とカーテン職人の倅が特にひどい。あとヤバいやつが1人いる。


「ほら、ミリリにキャロ。少し離れ」

「いや」

「もう少し、お願いします……」


沈静化のために少し離れようとしたら、むしろ密着されることに。男達の圧も凄まじく高まってゆく。

これは何だ、天国と地獄の狭間なのか。


「ほらほら男の醜い嫉妬はよしなさい」

「見苦しいわよー」

「「「「あぁぁぁぁ……」」」」


ミーファとレミが治療の終わった男達の襟首掴んでテントの外に放り捨てる。が、気配でわかる。テントの外でまだ睨んでおるわ、奴らは。


「はぁ……」


貴族をぶん殴ったことももちろん気になるが。

それ以上に。

明日以降、商店街での闇討ちが一番心配なエグジムだった。












ここまでお読みいただきありがとうございます!

仕事トラブルで若干メンタルやられてる作者です。

書き溜めがぁぁぁぁ、でもメンタルがぁぉぁ!!

仕事とプライベートをバツンと別れる人ってすごいですよね、尊敬します


次回更新は3/4を予定しております。

モチベアップのため、メンタル回復のため、何か反応くれると嬉しいです!!

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