第5話 白ノ国(5)
市中の人々と話しながら辿り着いたのは
「これは月白様。如何しました?」
糸目で薄紫色の髪色をした男性が月白を迎え入れる。白ノ国では珍しい色を持っていた。そもそも赤ノ国と紫ノ国の境にあるのが白ノ国なのだが紫ノ国自体が謎に包まれている。
常に視界を阻む紫色の濃い霧で閉ざされているのだ。紫ノ国の王の染力によって国を外敵から守っている。国を閉ざしているとはいえ紫ノ国の工芸品は見事なものだった。着物の布地に施される刺繍は各国の王が愛用しているほどだ。職人の国と言っても過言ではないかもしれない。
その全貌が見えないことから紫ノ国の人々は掴みどころがなく不思議な者が多い。目の前の両替商の男性もそんな雰囲気を醸し出している。
両替商には秤が置かれ、六国の貨幣が見えた。
「最近ここで白ノ国の貨幣に両替した客の中で怪しい者はいなかったか?」
糸目の男性の他に体格のいい警護役の男性も数名見える。灰青に比べれば小柄だったので灰青を目にした男たちは決まり悪そうに視線を外した。
「ああ!そういえば灰青様のように
灰青と月白は無言で目を合わせると頷きあった。
「帳簿を見せてもらおうか」
月白の言葉に両替商の男は店の奥から紙の束を取り出してくる。
「確か……
月白は「紅鳶」と名の書かれた部分を注視する。
「……変だな」
「やはり赤ノ国の者か……。その人物について詳し調べ上げて赤ノ国の王に抗議しましょう」
灰青が怒りを露にした口調で言った。
「一度屋敷に戻ろう」
月白は口元に手を当てて何かを考え込む。
「え?」
「ありがとう。迷惑をかけた」
驚いた表情をする灰青を他所に月白は帳簿を男に返すと足早に両替商を後にした。
「赤ノ国なら暗殺という汚いこともやりかねない!今も広大な領地を守るために小領主同士のいがみ合いが続いてるといいます。意にそぐわない小領主の暗殺など日常茶飯事でしょう。月白様との因縁もある。すぐに抗議の文を出しましょう」
屋敷への道を辿りながら月白の隣で灰青が興奮気味に語る。その様子を月白は呆れたように眺めていた。
「そんなもん書いたって相手にされないっての。それどころか白ノ国に攻め込まれる口実にでもされたら困る」
「ですが!このままではまた命を狙われます!」
「答えなんて簡単に分かると思ったらそうでもないな。動機から考えてみるか。そもそも私の命を狙う理由はなんだ?確かに白ノ国は特殊な国だけど各国が血眼になって狙うほどの資源もないし広さもない。
月白の言葉を聞いて灰青は更に捲し立てた。
「赤ノ国には野心家の王が座しています!白ノ国を足掛かりに紫ノ国に支配を広げようとしているのでしょう……。あの王ならやりかねない」
「……」
灰青の言葉を耳にしながら月白はただ正面を見据えて歩く。
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