第4話 白ノ国(4)

月白つきしろ様、うちの店寄っていきなよ!珍しいもんが入ったんだ」

「月白様!うちの菓子持っていきな!」

「つきしろさま。あそぼー」


 民に囲まれる主人を見て灰青は複雑な表情を浮かべる。小さいながらも月白も一国の主だ。こんな風に民から気安く話しかけられるような身分ではない。


「黄ノ国で有名なうた、聞いていかないかい?」


 月白に声を掛けて来た男性は朱と黄の混じった髪色をしていた。恐らくノ国の出身者なのだろう。

 ノ国では歌い手や舞踊、楽器の演奏者など、音に関する一芸に秀でた者が集まる。それは黄ノ国を治める王の染力が影響しているからだ。黄ノ国の王は何よりも娯楽を愛し、楽しいことが好きな人物だった。それゆえに一芸に秀でていない者には肩身の苦しい国でもあったのだ。


「音楽なんかより薬草のお茶はいかが?」


 今度は薄い緑色の髪色をした女性がささやく。

 りょくノ国は自然溢れる美しい国だった。薬草や茶葉の産出地であり、木材の質も良いのは王の染力のおかげだろう。隣り合う青ノ国の支配に置かれつつある為、緑ノ国の者が多く見受けられるようになってきた。


 他にも集まって来た民たちはとても色鮮やだった。薄い桃色、濃い緑色、淡い水色に眩しい黄色……。衣服も彩り豊かで一瞬にして目の前が華やかになる。灰青は思わず瞬きを繰り返した。

 色が統一されていないということは国が統一されていないということだ。治安が乱れている、将又はたまた神に見放された地域だと思われかねない。


「後でなー」


 小さな子供の頭を撫で、人々に屈託のない笑みを向ける。月白が市中を歩いているだけで周りから声を掛けられ放題だ。

 その様子を不機嫌そうに灰青は遠巻きから眺めていた。傍にいた初老の男性がしみじみと呟く。淡い赤色の短髪を搔きながら、同じ色の瞳が温かな光を灯している。


「この賑わい、白練しろねり様を思い出すな……。流れ者の集落がまさか国になるなんて思いもしなかった。しっかりと父上の後を引き継いでいる」

「……月白様の破天荒ぶりは白練様譲りというわけですか」

「そうだぞ!白練様もそれはもう大胆なお方だった。何せ大陸中を旅していたらしいしな。月白様も白ノ国を造られた後、各国を挨拶周りされたから親子して同じことをしている。

 奥さんのことは知らないけどきっと美人だったんだろうよ。ここに来た時にはもう二人だったからな。俺たちが知らない苦労があるんだろうよ。特に色の無い者はな……」


 灰青は男性の言葉に黙り込む。灰青は月白の従者になってから月白の生い立ちを聞くことはなかった。ただこんな風に人伝ひとづてに聞く程度でとても主君の口から聞けるような内容ではないと思っていたからだ。


(どんな生い立ちであろうと、色が無い者であろうと俺を救ってくれたのは月白様。それは未来永劫変わることのない事実だ)


「おーい。何ぼーっとしてるんだよ。さっさと行くぞ」


 月白がぼんやりとしていた灰青に向かって大きく手を振る。相変わらず周りに人々がくっついたままだ。灰青は小さく笑うと月白の方へ駆けていく。


「申し訳ありません。大人数を連れ立って行くのは如何なものかと……」


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