第15話 外堀町(2)

 外堀町の入り口である巨大な朱色の門をくぐると道の両脇に所狭しと並ぶ商店が現れた。旅人や他国の商人を相手にするためだろう。

 赤茶色の木材に赤い瓦屋根は月白つきしろの視界を塗りつぶした。朱色の提灯が町を装飾しより華やかさが増す。

 建物の形や色、建設場所の全てがりつによって決められているお陰で均整の取れた美しい景観が生み出されている。


「すげえ。久しぶりに来たけど……。前よりも賑わってる気がする」


 月白達は馬から降りて大通りを歩く。狭く、人通りの多い道で馬に乗るのは赤ノ国の律で禁じられている。


「綺麗な姉ちゃん、お茶は如何かな?」

「いや、うちの果物飴を食べていきなよ」


 立ち止まろうとすれば忽ち物売りに囲まれてしまう。


「へえ。美味しそうだな……」

「あっちに面白そうなのがあるぞ!」


 月白と珊瑚さんごは子供のように目を輝かせていた。その様子を見て灰青はいあおがため息を吐く。


「……月白様、先を急ぎましょう」

「ああ!そうだった。早く赤城せきじょうに行かないと。またあとで!」


 月白は珊瑚の首根っこを掴むと灰青を盾に先に進んだ。強面の灰青を前に歩かせれば人に話しかけられにくくなる。

 町の子供達が笑いながら駆けていくのを見て月白は目を細めた。


「懐かしい。赤ノあかのくには相変わらず大きいな……。ここでさえまだ国の一部分なんだ。よくもまあ、ここまでよくもまあ発展させてきた」

「白ノしろのくにも大きくしねえの?あんたなら赤ノ国にも負けないような大国、造れそうだけど」


 珊瑚に問われて月白は薄く笑った。


「とんでもない。この人数の民草を守りきるなんて私には荷が重すぎる。『染力』すらないのに」

「へえ。意外だな。あんたのことだから隠し技とか必殺技とか持ってそうなのに」

「それがないんだなー。私だって欲しかったさ」


 月白と珊瑚の他愛のない会話を聞きながらなんとか商店が立ち並ぶ一帯を通り抜けることができた。作物や野菜畑が所々に見える、農作民の住まう区画へやってきたようだ。


「ここらは城の外の領地から集められた農作民が赤ノ王に上納じょうのうするための食べ物を作ってる。ここに住む民草の食料は城外の領地から送られてくるもんでまかなわれてるんだ」


 珊瑚が腰に手を当て得意げに説明する。


「そこは昔から変わらないな」


 外堀町に住む農作民は城外の農作民よりも裕福な暮らしをしている。着物も上等なものを身に付けていた。城内で作物を作れば城への供給が楽になるだけでなく籠城戦や災害時に備えることができるという利点がある。代々赤ノ王が続けてきた土地政策だが現王の代でも健在のようだ。

 外堀町の農作民はそれは高い誇りをもっているのだということを月白はよく知っていた。農作民たちは旅人である月白達を疑り深い目で見る。


「お前さんたち、旅の人達かい?」

「……」


 灰青が月白の前に立ちはだかる。


「色のないもんなんて珍しいな。見てるだけで嫌な気分がする。昔、赤ノ王が贔屓にしていたあの変わった小領主を思い出すよ。まあ死んじまったけどな!」


 赤ノ国の民草は大国であるが故に他の国の人々を下に見ていた。特に色が無い者に対しての偏見の目は凄まじい。自分たちの色こそが優位だと認めて譲らないのだ。特にそう言った偏った思想は城内に住む者ほど強い。


「それは失礼。あいにく私はここに長居するつもりはないのでね」


 月白はそんな偏見をもろともせず笑顔で切り返す。面白い反応を見ることのできなかった農作民であろう男は鼻を鳴らす。周りにいた女性も子供を自分の方に引き寄せ月白達を視界に入れないようにする。

 旅人や商人たちが笠を深く被っていたのは赤ノ国の住人の目を避けるためだったのだ。

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