第13話 赤ノ国へ(7)

「なかなか似合ってるじゃないか」


 だいだい色に近い赤の着物を身に付けた珊瑚さんごがげっそりとした表情で畳の上に立っていた。月白つきしろから貰った刀で適当に切られた鮮やかな赤色の髪の毛も綺麗に整えられている。短くしたせいで髪の毛の癖が出始めたのか、襟足が跳ねている。前髪が見え隠れしていたのも無くなった。


「はい!とても立派な青年になりました。我々もとても楽しめましたよ。できればお美しいご婦人も着飾らせたいところですがね……」


 そう言って商人はキラキラとした瞳で月白を見つめる。


「それはまたの機会にお願いしよう!」


 月白はきっぱりとその誘いを断った。白ノ国の貨幣から赤ノ国の貨幣へ両替してもらい支払いを終えると商人と両替商、髪結い師は姿を消した。

 静かになった部屋の中で珊瑚は大の字になって倒れ込んだ。


「疲れた!なんたっていきなり全身洗う羽目になるし……。色んな着物を着つけさせれるしで。お偉いさんってのは毎回こんなことに時間と体力を使ってんのか?考えらんねー」

「小奇麗になれば少しは仕事の幅も増えるだろ。中身はともかく、身だしなみで誤魔化すことができる場合もある。馬鹿な官吏でもそれらしい格好をすれば賢く見えるというわけだ。まっ、最初の一回しか使えない手だけどな。ここぞという時に使うと良い」


 月白が疲労感たっぷりの珊瑚を見て楽しそうに笑った。


「それはそうかもしんねえけど……。途中女もんの着物も着させなかったか?完全に俺で遊んでたろ!」

「そうだったかな?」


 月白がとぼけるように視線を天井に向ける。


「まあ……ありがとう。俺じゃあここまで揃えられなかった」

「お代は出世払いということで。赤ノ国にいる間、私の為に動くように」


 月白がおどけたように言うと畳に横になった。


「あのさ。まだここから出れないみたいだから聞くけど。どうして赤ノ国に来た?王と昔からの知り合いで……。命を狙われてるって」

「そう言えば珊瑚には詳しく話していなかったな。話そう」


 月白はよっこいせと上体を起こすと畳の上に胡坐をかいて珊瑚と向かい合った。珊瑚も慌てて起き上がると月白と対面した。


「私が赤ノ国にやって来たのは犯人捜しと命が狙われた原因解明だ。私は自分の屋敷で間者に殺されかけた。犯人はどこの国の者か分からないように術をかけられていたからね。まあ、赤ノ国の貨幣を白ノ国の両替商で両替していたから赤ノ国の者である可能性が高いんだけど」


 珊瑚は呆然とした表情を浮かべる。


「あんた馬鹿か?命を狙ってる相手の本拠地に飛び込むなんて」


 珊瑚に馬鹿にされた月白はつまらないという風に顰め面をして見せる。


「……皆口々に私のことを馬鹿にするな。まだ赤ノ国の間者だと決まったわけじゃない。大体赤ノ国みたいな巨大国家がこんなちっさい白ノ国を狙うはずないだろう?だから他に私の命を狙う理由があるはずなんだ。それを調べるのに赤ノ国は色々と都合が良いんだよ」

「……よく分かんねえけど。あんたの肝が据わってるってことはよく分かった。んで昔馴染みの赤ノ王を頼ったってことか。でもさ、さっき門兵達が復讐でもしにきたかとか言ってて全く友好的じゃないじゃん」


 月白は赤ノ王の話題になると腕組をして落ち着かない様子になる。はっきりとした性格の月白には珍しく言葉に迷っているようだ。


「そうだなー。説明が本当に難しいんだが簡潔に言うと、私の父を殺したのが前の赤ノ王で、その前の赤ノ王を殺したのが今の王、蘇芳すおうなんだ。私は一時期赤ノ国の王城に出入りしてた」

「……ん?」


 珊瑚は首を大きく傾げた。その反応を見て月白は軽く笑い飛ばす。


「そういう反応になるよなー」

「……赤ノ国の王が前王との不仲が露見して殺したのは民草の俺でも知ってる。王の妖術とやらも今の王の方が強かったっていうのも。だけどまさか白ノ国が絡んでるとは思わなかった。あんた、この国にいない方がいいんじゃないか」


 珊瑚が急に不安そうな目つきになる。


「珊瑚までそんなこと言うのか?残念ながら問題を解決するにはここに来るしかないんだ」


 月白の表情に不安はなく、ただ優しい表情を浮かべていた。


 



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