第12話 赤ノ国へ(6)
「
お椀に入った
結局、赤ノ国の王が控える
「友達?愛妾……?あはははっ!やっぱりお前、面白いわ!残念ながらどちらでもないね」
夕餉を食べていた箸をお膳にのせ、月白が腹を抱えながら言った。
「どういうことだよ。だって妙に馴れ馴れしい感じだったし」
「そうだな……。昔からの知り合い、腐れ縁ってやつかな」
月白は何てことはないという風に答えると再び箸を手にして食事を始める。灰青にはそれがわざと取り繕っているのだということがすぐに分かった。
「というか、灰青大丈夫か?さっきから騒がしいんだけど」
干した野菜を口にしながらじっとりとした目で月白は灰青を見た。
「いえ……。申し訳ありません。あまりにも餓鬼が無礼な質問をするので驚いただけです」
「餓鬼だと?珊瑚って立派な名前があんだよ!」
灰青の挑発に乗った珊瑚が畳を蹴って立ち上がる。
「うるさいなー。お前達年が近いんだから少しは仲良くしたらどうだ?」
月白が耳を塞ぎながら言うと珊瑚が聞捨てならないというふうに噛みついた。
「年が近い?こいつ幾つだよ?」
「21歳だよ。珊瑚は見たところ17か18だろ?」
「……はあー?この貫禄で?もっとおっさんだと思ってた。まあ21でも十分おっさんだけどな」
珊瑚が灰青の年齢を聞いて騒ぎ始めた。
「月白様。やはりこいつ捨てていきましょう。今すぐに」
灰青が静かな怒りを露にしても月白は構わず夕餉を食べ続ける。
「灰青がおっさんだったら25歳の私はどうなるんだ。老婆か?」
「あんたは意外と年なのな……」
珊瑚が再び月白の年齢を聞いて素直な感想を漏らす。その様子に灰青は更に殺気立たせていたが月白は大笑いした。
「素直でよろしい!だからこそ悔いのないよう日々を生きてる。成し遂げたいことを成すために」
月白が急に真剣な表情に戻ったのを珊瑚は不思議そうに眺めた。怒らせてしまったのかと思ったがそうではないらしい。すぐに茶目っ気溢れる表情に戻って言った。
「人は必ずいつか死ぬ。時が巻き戻ることはない。今この瞬間、どう動くかが大事なんだ。それはお前も同じだぞ。珊瑚」
「こう、三食出てきて至れり尽くせりなのはありがたいが……。ずっと閉じ込められているのもしんどいな」
縁側で胡坐をかき、太腿の上に頬杖をついた月白が退屈そうに庭を眺めていた。視線の先には鞘に入ったまま刀を振るう灰青の姿がある。庭の隅に控えている兵士が恐れおののくような表情で灰青を見ている。
宿泊所で一夜を過ごした三人は平穏な朝を迎えた。
「こんな状況でも鍛錬?見た目はあんなんなのに真面目かよ」
「月白様、商いの者をお呼びしました」
月白の背後からすらりと襖が開き、朱色の髪に赤い着物を身に付けた女中が現れた。
「お!来た来た」
「何だよ。暇だから買い物でもしようってのか。流石王様」
二名の大柄な男が重量のある籠を置いた。籠の中から赤系統の着物が次々に出てくる。花や虎、鶴や格子模様など様々な布地のものが並べられ珊瑚は目がチカチカしているようだ。
「あんた着物買うの?言っちゃあなんだけど……あんたこの国の色、似合わないと思うよ」
「私の分じゃない。珊瑚、お前のだよ」
その言葉を聞いて珊瑚は目を瞬かせた。
「え?」
「これから城に上がるんだ。相応の恰好をしないと。私達は着替えを持って来てあるからさ」
「髪結いの者も呼んできたからな。適当に見繕ってくれ」
月白の言葉を最後に商人と髪結い師が珊瑚を取り囲む。珊瑚の背中に冷たい汗が流れた。
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