第9話 赤ノ国へ(3)
「いい食べっぷりだな……」
火を灯した囲炉裏の周りに奇妙な顔ぶれが囲む。
携帯食は彩ノ大陸の大部分で栽培することのできる粒状の食べ物、イイを調理して一つの塊にしたものだ。長持ちするようにしょっぱい調味料、エンをまぶしてある。
「他にねえのかよ」
食べ終えた少年がじろりと月白を睨んだ。
「ああ。干物とかちょっとした菓子なら……」
「月白様、
灰青は着物の
「餌付けって……。俺は畜生じゃねえ!お前こそ犬だろ!そこのお偉いさんに引っ付いて!」
「……。月白様、こいつを斬り捨てても?」
灰青が再び静かな殺気を発し始めたのを見て月白は大笑いした。
「お前達ってほんとに面白いねー!笑いすぎて携帯食食べれないんだけど」
その様子を少年がまじまじと見つめる。視線に気が付いた月白が涙を拭いながら問いかけた。
「どうした?」
「いや……。よく見たらあんた
少年がもの珍しそうに月白の青みがかった白い髪を眺める。笠を取り外した月白の頭髪は露になり、囲炉裏の火で神秘的な光を放っていた。
「まあ。そんなとこかな?なかなかうまいことが言えるじゃないか。どれ、菓子をやろう」
気分を良くした月白が袂を探ろうとするのをもう一度灰青が止める。
「お前、人のことをじろじろ見るな。無礼だぞ。月白様はお前が思っているよりも偉大なお方なんだ」
「へえー。やっぱりお偉いさんなんだな!間者に狙われるってことは訳ありだ」
鮮やかな赤色のぼさぼさの髪をした少年が悪い笑みを浮かべた。囲炉裏の炎と合わさって赤い瞳が燃えているように見える。
「それで。お前はここで何をしてる?見たところ民がこの場所を明け渡したように見えるが」
月白が笠を調整して顔が見えるようにすると携帯食を頬張りながら少年に問いかけた。
「みんな連れていかれたんだ。売られたから城内にいる奴もいるしそれ以外は分からねえ」
「税でも納められなくなったのか?」
「ああ。この辺りを治めてた小領主、
この辺りって都市部からは少し離れてるだろ?だからそういう屑が屑なことをやってもバレねえの」
少年が視線を落としながら語った。
「俺は何とか捕まらないように逃げ切った。自由を奪われてたまるかと思ってな。家族や友達だって逃げりゃあいいのに聞かなかった。命が助かるには捕まるしかないんだって……。王には逆らえないって。馬鹿だろ?自由ほど大切なものはねえのに」
少年は膝の上で頬杖をついて苛立ったような表情をしていた。少年の細い手首には先ほど灰青に取り押さえられた時にできたアザが見える。
「ここで人を襲って生計を立ててたのか?」
灰青が鋭い目つきで少年を問い詰めた。
「脅しただけだ!殺してない。前は城まで行って働き口を探してたけどここの村のもんだとバレて捕まりたくなかった!」
「……ほら、これ」
月白は腰から白い拵えの小刀を引き抜くと少年の方に投げやった。少年は反射的に両手で小刀を受け止める。
「その小刀、結構いいもんだからいい値で売れるはずだ。その金を元手に何とか生きてみな。今日をもって悪事から足を洗え」
暫く少年は瞬きを繰り返していたが怒りで声と肩を震わせた。
「は?何だよそれ。憐みのつもりか?これだからお偉いさんってのは腹立つんだよ!お前らは何の不自由も感じたことがないくせに。物と金だけ与えておけばいいと思ってるのか?」
「口を慎め!月白様の温情を何だと思って……」
灰青が立ち上がって刀に手を掛けるのを月白が刀の
「お前がどう捉えようとお前の勝手だ。ただ、私がやりたいようにやっただけのこと。明日、私達は朝が早い。もう休ませてもらう」
そう言って月白は大きなあくびをすると笠を深く被って横になってしまった。灰青はその場に座り直し腕組をして少年を睨みつける。
「なんなんだよ……!」
少年は白い拵えの刀を手に床に仰向けになった。
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