その166、お祝いをしよう(6)

 モアイを掲げ家中を跳び回る父。それはまさに歓喜の舞だった。

「コッペパンにモアイ! さすがはセンスの塊!」

 やはり猫とは認識してくれなかったようだ。けれどその喜びように、どうでもよくなってきた。

「モ・ア・イ! モ・ア・イ!」

 ……少々後悔が湧く。つい意地悪な質問が漏れた。

「ねえ、どれくらいうれしい?」

「もちろん、これまでで一番」

「でも、さっきも一番って」

「そりゃあ、さっちゃんのは全部一番うれしいに決まってるだろ」

 息が詰まった。鼻の奥がつんとして、慌ててそっぽを向く。

「それ、何か変」

 ぽん、と父の手が頭に乗った。

「ありがとう、大事にするよ」

「……うん」

 そっとモアイを見る。案外悪くないかもしれない、と思った。

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