その165、お祝いをしよう(5)
蛇口からの水音と、お皿を重ねる乾いた音。
台所は静かだった。いつもは三人で洗い物をするのだが、誕生日ということで父は免除されている。
「ねえ、プレゼント渡さないの?」
母の質問にどきりとする。どうやらすべてお見通しらしい。
「失敗しちゃったし。それに、料理もつくったし」
「さっちゃんは、それでいいの?」
言葉に詰まる。ポケットの重みがやけに気になる。
ずっともやもやしていた。せっかくつくったのだ。出来は絶望的だとしても、渡したい気持ちはある。そして、父ならきっと喜んでくれる。けれど――
「さっちゃんは、褒められたくてつくったの?」
思わず母を見た。
「あとはやっておくし」
かちゃり、と皿を重ね、母はにっこり笑った。
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