その164、お祝いをしよう(4)

「ふう」

 座いすへと倒れ込む父。

 食卓に並べられた大皿やボウルはきれいに空となっている。ぎょうざ、麻婆春雨、ポテトサラダ――山と盛られたそれらがあっという間に消えていく様は、壮観ですらあった。

「どうだった?」

 母だ。気にしつつも口にできずにいた私の代わりに聞いてくれたのだろう。父がこちらへ顔を向ける。

「最高だった。さっちゃん、ありがとう」

 とくん、と心臓が鳴った。

「これまでで一番うれしいよ」

 それは翳りひとつない笑顔で。

「……うん」

 ちょっとだけ目を逸らす。

 ――そっか。

 これまでで一番だって言ってくれたし、これでよかったんだ。

 やっぱり、渡さなくてよかったんだ。

 ポケットの中のモアイを、私はぎゅっと握り締めた。

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