その163、お祝いをしよう(3)

 とんとん、と包丁の音が響く。

 キャベツの向きを変え、刃を入れる。ぎょうざ用に粗みじんにしているところだ。隣では母がポテトサラダをつくっている。

 誕生日当日。モアイを断念し、手料理を振る舞うことにしたのだ。

「るるるんるんるんるんるん」

 そして背後から響くのは、某料理番組のテーマソング。父だ。料理の件を聞いてから、言葉を覚えたてのオウムみたいにずっとリフレインを続けている。

「お、いい匂いがしてきた」

 いや、まだ下ごしらえの段階だし。

「ねえ、静かにしてよ」

「『今日の料理』のテーマの方がいいか?」

 選曲の問題ではない。

 けれどその満面の笑顔を見ると、何も言えなくなる。

 気がつくと、やたらと細かいみじんになっていた。

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