【番外編2】えんぴつ

「スプーン曲げはもう古い」

 いきなり部屋にやって来て、父が言った。どうやらまた変なものにはまったらしい。

「今はこれだ」

 取り出したのは、何の変哲もない鉛筆だった。

「これを折らずに曲げて進ぜよう」

 返事を待たず、親指と人差し指で鉛筆の中央を持つと、父は上下に振り始めた。途端、鉛筆がぐにゃり曲がる。いや、曲がったように見えた。

「……いま勉強中」

 とっとと追い出す。漢字ドリルの続きをしようと鉛筆を持ったところで、手を止めた。

 そっと上下に振ってみる。ぐにゃり曲がる鉛筆。なんだか妙な感覚でにやけてしまった。

 と、悪寒を覚えて振り向く。ドアの隙間から父の顔。そして、サムズアップ。

 顔を熱くして、私は鉛筆を投げつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る