その161、お祝いをしよう(1)

「うーん」

 肘をついて机の上を見つめる。

 千五百七十円。今ある全財産だ。

 奮発したとして五百円が限界か――何にしよう。

 贈り物をするのって、けっこう大変。普段、相手が何をほしがっているかなんて気にも留めていないことに、あらためて気づかされる。

 ぽん、と肩を叩かれた。振り返ると、父が笑顔でサムズアップした。

「さっちゃん、お父さんは気持ちだけで充分だぞ、本当だぞ」

 なんかイラッとしたのでチョップするも、めげずに続ける父。

「あと、買った物より手作りの方が喜ばれるぞ」

 帰れ。

 父を部屋から追い立て、もういちど頬杖をつく。

 ――手作り、か。

 この年でちょっと照れくさいけど、それもいいかも。

 一週間後、六月十日は父の誕生日だ。

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