その160、授業参観を受けよう(13)

 黒板に掛け算の問題が書き並べられていく。

 五時間目、算数。先ほどカッコーが描いた絵はとうに消されているが、黒板の隅には青と赤のグラデーションがわずかに残っていた。

 ぼんやりと、それを見つめる。

 ――カッコーって、あんなに絵がうまかったんだ。

 黒板に描かれたチョウトンボは、写真よりも断然生き生きして見えた。悔しいけど腕前は認めざるを得ない。

 それに――

 チャイムが鳴るまで時間を稼いでくれた。

 おかげで涙を見せることなくあの窮地を乗り切ることができた。授業が始まってしまったので父母対決はうやむやのままに立ち消え、いまは双方静かに観覧している。

 ――助けられちゃった。

 そう思うと、柄にもなくちょっと胸がドキドキした。

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