その158、授業参観を受けよう(11)

 生息場所は抽水植物の繁茂した池沼。一年一化で羽化は六月頃。夏から秋にかけて打水産卵する――

 口をついて出るチョウトンボの説明。うん、何やってんだ俺。

 牧野もぽかんと目を見開いている。けれど、もうやめられない。というかやめるのが怖い。

「さっきから何の話ですの?」

「チョウトンボです!」

 母親側からの横やりを一蹴して、教壇に駆け上る。

 黒板にチョークを走らせる。板面いっぱいに描くのは、チョウトンボ。昆虫の絵は自由帳に散々描いてきた。お手の物だ。

 白で形を描き、青く塗った羽に黄色のハイライト、赤も混ぜてグラデーション。

 完成させ、チョークを置く。静まり返った教室。そして、

「きれい」

 牧野が言った。

 チャイムが鳴った。

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