その157、授業参観を受けよう(10)

「あの、えーっと……」

 言葉が出ず、うつむく。それでも視線の集中砲火が痛い。特に父親側の一部からものすごくにらまれている気がする。今日の帰り道、だいじょうぶだろうか。

 ……もうだめだ、教室に戻ろう。ピータンたちとナミアゲハについて語って気ままに余生を過ごそう。

「カッコー?」

 牧野の声だった。思わず顔を上げる。

 目が合った。とくん、と心臓が跳ねる。俺を見る牧野の目は、少しうるんでいた。

 頭が真っ白になった。

 何か、言わなくちゃ。牧野の気持ちを紛らわせられる何かを。けれど何と言えば? いくら考えても二人に共通のそんな話題なんて何ひとつ――

 知らず、口が動いていた。

「チョウトンボって、トンボ科チョウトンボ属なんだ」

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