その124、迎えに行こう(3)

 帰り道。雨脚は先ほどより弱まったようだ。

「何買ったの?」

「気になるか?」

「ううん、別に」

「よし、勝負だ」

 なんでだ。

 父が歩道の白線に足を乗せた。

「この上をはみ出さずに長く歩けた方の勝ち」

 子どもか。

「車来たら危ないよ」

 これ、普通は親のセリフでは? けれど、父は不敵に笑う。

「ここは一方通行だからだいじょうぶ。こっちが勝ったら、相合傘。そっちが勝ったら何を買ったか教えよう」

 実入りが少なすぎる。断ろうとするも、父が機先を制した。

「じゃ、お父さんが先攻な。よーい、スタート!」

 と、言葉が終わらないうちに正面から車が来た。慌てて白線から降りる父。水しぶきをあげて通り過ぎる車。

 父と顔を見合わせる。

 ――記録、0秒。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る