その119、買い物に行こう(13)

「私は気にしてないから」

 その言葉に足が止まる。怖くて隣を見られない。とどめか? とどめを刺しに来たのか?

「カッコーも気にしないでね」

 ――一回でうまくいくわけないでしょ。

 姉の言葉がよぎる。覚悟を決め、とにかく抵抗を試みた。

「えっと、何を?」

「ん? この間のけんかのこと」

 すぐには理解が追い付かなかった。けれど、

「え?」

 気にしてないって、そういう意味? 

「やっぱ気にしてた?」

 胸のわだかまりが急速に解けていく。俺はぶんぶん首を振った。 

「全然! けんかするほど仲が良いって言うし」

 思わず飛び出た言葉に、途端に顔から火が出た。

 うわあ、なに余計なこと言ってんだ俺。牧野もきょとんとしている。

 ……やっぱり、早く帰りたい。

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