その110、買い物に行こう(4)

 それはさながら作業だった。

 黙々と食材を選ぶ牧野に、黙々とカゴを構える俺。盛り上がりのひとつもない。

 カゴの中のレタスを見つめる。ここはひとつ、華麗に豆知識でも披露すべきなんじゃないか? レタスに潜んでいそうな虫とか列挙すべきではないのか?

 けれど結局、トークらしいトークもないままレジへ。焦りで胸が熱くなる。

「二千五百二円です」

「あ」

 レジ打ちのおばちゃんの声に、思わず声をあげる。姉のとあるアドバイスを思い出したのだ。窮地からの一発逆転が可能な、決め台詞――

 もちろん全面的に信じたわけではない。けれど、このまま終わるわけにはいかない。

 牧野を見る。けげんな顔の彼女に、俺は決然と言った。

「ここは俺が払うから」

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