その104、お好み焼きを返そう(5)

 息を呑んだ。

 父のコテで宙へと舞い上げられたお好み焼き。

 二回、三回――軽やかな回転。

 やがて頂点に達したそれは、勢いよく鉄板へと落下してゆき――

 立った。

 鉄板の上に、お好み焼きが立った。

 おそらく、片面を分厚く覆った豚肉が背骨の役割を果たしているのだろう。どうだと言わんばかりの、さも誇らしげな直立不動。

「こ、これは……?」

 偉業なのか失敗なのか。父と顔を見合わせる。そんな二人をさておいて、手を叩いて笑い声を上げるベビーカーの幼児。

「引き分け、かな」

「……かな」

 釈然としないまま、父がお好み焼きを倒す。と、唐突に声が上がった。

「ありがとうございます!」

 見ると、若い男女が涙ながらに頭を下げている。

 ……え、誰?

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