その103、お好み焼きを返そう(4)(※『さっちゃん』で間違いありません)

 私はため息をついた。向かいに座る妻は無言で鉄板を見つめている。

 半年前、二人に初めての娘ができた。仕事でも新しいプロジェクトを任され、前途は洋々だった――はずなのに。

 育児と仕事に追われ二人、時間が、気持ちがすれ違っていって。

 そのうち、娘が笑わなくなった。笑いかけても反応せず、仏頂面。

 このままではいけない――

 だから、この店に来た。二人が出会った思い出の場所。ここに来れば、何かが変わると思って。

 けれど、突き付けられたのは無情な現実だった。時計の針はもう戻せないのだ、と。

 伝票を手に取る。もう、ここにいる意味はない。

 と、そこで私は思わず固まった。彼女も目を見開く。

「うそ……」

 目の前で、奇跡が起きていた。

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