その102、お好み焼きを返そう(3)
コテをすばやく返すと、狙い違わずお好み焼きはきれいな着地を決めた。焼き色も上々だ。
「ねえ、焦げちゃうよ?」
一方、生地にコテを差し向けたまま硬直している父。煙の色がそろそろ危険水域だ。何事かと、隣のテーブルからベビーカーの幼児も凝視している。
「今日が貴様の命日よ」
それさっき聞いた。というか悲壮な顔で言うセリフではない。
ふう、とため息をつく。
「私が返してあげようか?」
せっかくの百回記念だし。
「さっちゃんが焼いてくれる、だと?」
ごくり唾を呑み込み、けれど首を振る父。
「ありがとう。だが、娘の前で無様を晒すわけにはいかぬ」
もう十分晒した気もするけど。でも――
「がんばって」
私の声に頷き、父はコテを翻した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます