その102、お好み焼きを返そう(3)

 コテをすばやく返すと、狙い違わずお好み焼きはきれいな着地を決めた。焼き色も上々だ。

「ねえ、焦げちゃうよ?」

 一方、生地にコテを差し向けたまま硬直している父。煙の色がそろそろ危険水域だ。何事かと、隣のテーブルからベビーカーの幼児も凝視している。

「今日が貴様の命日よ」

 それさっき聞いた。というか悲壮な顔で言うセリフではない。

 ふう、とため息をつく。

「私が返してあげようか?」

 せっかくの百回記念だし。

「さっちゃんが焼いてくれる、だと?」

 ごくり唾を呑み込み、けれど首を振る父。

「ありがとう。だが、娘の前で無様を晒すわけにはいかぬ」

 もう十分晒した気もするけど。でも――

「がんばって」

 私の声に頷き、父はコテを翻した。

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