その105、お好み焼きを返そう(6)

「娘が、笑ったんです」

 男はきゃっきゃ笑っているベビーカーの幼児を見た。

 ……あの子のご両親? だとしてなぜ泣いているのか。

 うんうんと父が頷く。

「分かります分かります。娘の笑顔、プライスレス」

「生きていく希望が見えた気がします」

「娘は至高ですよね」

 ……何というか、かみ合っているようでかみ合っていない気が。

 と、父が名刺ほどのカードを夫婦に手渡した。

「娘にぞっ懇親会……?」

「娘を愛する同志の集まりです。あなたはひとりじゃない」

 布教やめれ。

「僕は……僕たちは、ひとりじゃない!」

 え、受け入れるの!?

 抱擁を交わす父親たち。感涙にむせぶ母親。きゃっきゃと笑い声。焦げていくお好み焼き。そして私は――途方に暮れた。

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