その76、空と君との間には(5)

「おっすー」

 新しい教室に入ると、眼鏡の二人が手を振って来た。モンちゃんとピータン――昆虫仲間だ。ことにクワガタにかけては、二人の右に出る者はいない。俺はやけくそに手を振り返した。

「そういや」

 合流するや、ピータンが身を乗り出した。

「ハネカクシの新種が発見されたね」

「うん、ナギサハネカクシでしょ」

 とく、と心臓が鳴った。

 ……落ち着け。「ナギサ」だ。ナギサハネカクシだ。俺は話に割って入った。

「今度の日曜、昆虫館行かね?」

「いいね!」

 歓声が上がる。

「ちょうど、さなぎを見に行きたかったんだ」

 むせかけた。

「な、何であいつが!」

「は?」

 二人がきょとんとする。

「……何でもない」

 そう、別に――どうってことないし。

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