その47、ひな祭りを祝おう(3)

 我が家にはひな人形がない。

 以前は本格的な逸品があったらしいが、大小様々な問題が持ち上がったため手放したという。

 おそらく父が暴走したのだろうと、それ以上は何も聞いていない。世の中、知らない方が幸せということもあるのだ。例えば秘密結社とか。

 家族三人で着物を着るのは、ひな人形の代わりといえる。そして、もう一つがながし雛。近所の川辺で行われる町内行事で、こちらも毎年の楽しみだった。ただ、今年は――

「どうする?」

 父が聞いてきた。

 ながし雛が行われるのは、夜。この間の一件のせいで、夜に外出するのは少々勇気がいる。

 だけど。

 父の腕をぽんと叩く。

「守ってくれるんでしょ?」

 にっと笑うと、父は私の頭をくしゃり撫でた。

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