その48、ひな祭りを祝おう(4)

 ちらし寿司を食べて(もちろん最高の味だった)一息ついたところで、家を出る。

 外はとっぷりと暮れていた。着物の襟から入り込む夜気は冷たく、けれどほのかに春の予感を感じせた。緊張していた気持ちが、少し緩む。

 土手には無数の提灯が吊られ、川面をゆらゆらと灯りが揺れていた。今年は例年より人が多いようだ。

 紙雛を取り出す。提灯の灯りの下、その顔に複雑な陰影が落ちた。まるで、生きているかのような

 ぞくりと身体が震えた。去年まではこんなことなかったのに。

 ぽん、と肩に手が載る。父だ。大丈夫だよ、と伝えるように。

 小さく息をつくと、笹舟に載せて川に浮かべた。

 ゆるやかに流されてゆく紙雛は、あっという間に暗闇の中へと消えた。

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