その46、ひな祭りを祝おう(2)

 ずらりキッチンに食材が並ぶ。ちらし寿司をつくるのだ。

 調味料もすべて新品、父がこの日のために購入したものが揃っている。男の人が料理するとやたら材料にこだわる――母の言だ。

 そして、後日使い切るのに苦労するまでがワンセット。例えば赤酢。お寿司以外に使い道がなかろうに、当然のように買ってくるのが父だ。

 だけど。

 父がしゃもじでご飯を切り混ぜる。素人目にも見事な手際。

 そう、父の料理は美味しい。なので、多少の問題には目をつぶらざるを得ない。いい材料を買っても活かし切れない人ばかりなのにね――これも母の言。やけに楽しそうな顔が印象に残っている。

 うちわで酢飯を冷ます。ふわり立ちのぼる香りに、思わず顔がほころんだ。

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