その45、ひな祭りを祝おう(1)

「こちらを向くのじゃ」

 床すれすれで半身をねじり、父が言った。どう見ても無理な体勢に、レンタルした着物を傷めないかハラハラする。

「さあ、笑顔でおじゃる」

 あとそのエセ平安弁へいあんべんやめれ。

 ため息をついて、私はごついカメラに笑いかけた。

 ひな祭り、である。

 例年、我が家では家族三人着物で過ごす。もちろん今も着物姿である。

 着物は嫌いではない。お姫様、という感じで。難点は、ごわごわと動きにくい。あと父の撮影会が長い。

 と、不穏な音が聞こえた。衣が裂けるような。

凪雄なぎおさん?」

 名を呼ばれ、蒼ざめた父が振り返る。母が仁王立ちしていた。

「……かたじけないでおじゃる」

 それたぶん用法違う。

 ともあれ。

 今年は長くならずに済みそうだ。

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