第6話かけがえのない

 病院で処置をしてもらった瀧川さんは今、目の前で元気そうに踊っている。しかも僕を茶化しながら。

「生きてくれ!瀧川!あの言葉少しだけど聞こえてたぜ。かっこいいこと出来んじゃねえかよ!」

「元々は君が自殺なんかしようとするからだろ。」

「うん。ありがとな。」

急に素直になられてこっちも少し困惑する。

「でもなんで自殺なんか。」

「わかんないんだ。急にすんげー虚しくなって。そういえば私、大して楽しいことなんかないなってなって。」

僕にはよくわからない。いつも楽しそうにしている瀧川さんのどこが楽しくないのか。

「君が楽しくないなら僕はとっくに死んでるよ。」

「まあそーだな!」

キャッキャと笑いまた僕を馬鹿にする。しかしその急な虚無感というのは何か引っかかる。「思い出」が見えないことと何か関係があるのだろうか。

「そういえばさ、私の『思い出』って見えてんの?」

急にそんな事を聞かれ動揺する。

「私、あんまり吉川に自分の事話してないんだけど、まあ見えるなら仕方ないって思ってんの。一応私にも嫌な過去くらいあるしね。」

ここは正直にいうべきだろうか。言ったところで彼女を不安にするだけではないだろうか。そんな風におどおどしていると、

「見えないんだろ?私の。」

「え?」

「吉川さ、顔に出すぎ。」

そう言って笑い飛ばしてきた。

「そんでなんか見えないのと不審死が関係してて今回私がそうなったって事なんじゃねえの?」

どうして彼女はこういう時に頭が冴えるのだろうか。そんなことを考えていると瀧川さんは自分の過去について語り出した。

「私さ、ちっちゃい時に両親離婚してその後ばあちゃんとこで育ったんだよね。でもばあちゃんも結構歳だったから私が小4の時に逝っちゃって、でも皆私を引き取ろうとしなかった。そんで悲しい悲しい一人暮らしが始まったの。中学とかになると友達呼べて楽しいとか思ったけど結局溜まり場として使われちゃってもうめちゃくちゃ。だから私は家族も友達も実際にそう呼べる人はいないんだ。」

そんなことがあったのか。なんだか僕みたいだ。状況は少し違うにしても結局1人なのは一緒。そうだ、だから。

「だから僕は、瀧川さんの『思い出』が見えないんだ。」

「どゆこと?」

「僕はずっと1人で生きてきて、両親が死んだ事を忘れようと必死だった。だからそんな同じような境遇の『思い出』が見えなかったんだ。」

「見えない事の理由は分かったけどなんで自殺するかはわかんなくねーか?」

「この世界は『思い出』に満ちている。どんな人にも、どんな場所にも。だからそのものの存在が証明される。でもそんな『思い出』が無かったらどうなると思う?」

「生きてる感湧かなくて死にたくなる的な?」

「まさにそうだ!だから君を救うには『思い出』を作るしかない!」

「でも私、『思い出』とか嫌いなんだ。いい『思い出』も悪い『思い出』も結局思い出して悲しくなっちゃいそうで。」

「それが落とし穴なんだ。そんな負のループに陥ったから自殺していくんだ。」

「そうか。わかった。けど私前も言ったけど友達なんかいねーぜ?」

「僕と友達になってやるって言ったのは誰だっけ?」

挑発的な目で瀧川さんを見る。

「馬鹿にしやがって。お前の友達になってくれるのなんてこの心優しい向日葵様しかいないだろ?」

はあやっぱり瀧川さんには敵わないな。少し照れた顔で彼女の顔を見ると「なんだよ!」と少し照れくさそうにしていた。

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