第4話 Gカップグラビアアイドルの専属ヴァイオリン講師になりました
おっぱい、ヴァイオリン、おっぱい、ヴァイオリン……。
情けない話だけど、僕はもうそのことしか頭にない。
カフェテーブルの向こうで凄まじいまでの存在感を放っている大きなふくらみ……。
Gカップ×ニットは反則だよ……。
片隅でほわほわと湯気を立てているカフェオレなんてもはやどうでもいい。
羽衣さんに声をかけられて喫茶店に入ったはいいが、「芸能人とテーブルを挟んで向かい合っている」という状況はやっぱり異常だと思う。
しかも"Gカップ"という狂気が僕の理性をかき乱す。
見ちゃいけないと思いながらも、つい胸の辺りばかり見てしまう。
へぇ~これがGカップか……。顔は童顔なのに、どうしてこんなに発育が良いんだろう……。まぁ、このギャップが人気の秘訣なんだろうけど……ん?
僕の視線に気づいたのか、羽衣さんが胸を両手で隠した。
(や、やばい……!)
誤魔化そうとして慌ててカフェオレに口をつけ、
「熱っ!」
ホットだってことをすっかり忘れてた……あちゃ~。
「だ、だいじょーぶですかっ?」
羽衣さんが身を乗り出してハンカチで僕の口を拭いてくれる。
優しい。可愛い。ていうか近い近い近い近い……っ!
バニラのような甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「それで……あの……さっきの話の続きなんですけど――」
羽衣さんは腰を下ろすと、そう僕に切り出した。
「さっきの話? えっと……」
僕は目を白黒させる。
……おっぱいに夢中で全然聞いてなかった。
「何の話でしたっけ?」
「もうっ、聞いてなかったんですかぁ~?」
ほっぺたをプクーとふくらませる羽衣さん。
いやいやいや、反則ですって……?
可愛すぎますって!?
「だから……あなたのヴァイオリンに感動したんです。私のヴァイオリンの先生になってくれませんか? って話ですよ!」
「えっと……」
答えに窮する。それでやっと思い出した。さっきこの喫茶店に入ったときも、羽衣さんはいきなりその話をしてきたんだった……。
「あなたのヴァイオリンすごかった。本当に感動しました。だからお願いです、私のヴァイオリンの先生になってください!」
「えーっと、意味がわからないんですけど? 僕も初心者ですよ?」
「嘘つかないでください! さっき先生も言ってたじゃないですか、『プロ級だ』って! あんなに上手い人いるんだって私、感動したんですから!」
「いや、あれは、僕が弾いたんじゃなくて……」
「何言ってるんですか! あなたが弾いたんですよ? 私ちゃんと隣で見てましたから!」
「いや、僕が弾いたっていうか……まぁ僕が弾いたっちゃ弾いたんですけど……」
マジか……。
羽衣さんにもちゃんと聞こえてたってことは、やっぱりあれは夢でも幻想でも幻聴でも幻覚でもなく……現実だった……ってことか?
ってことはあの時コスプレイヤーさんからもらった【ヴァイオリンのスキル】とやらは……本物だった……ってことか?
じゃああのステータス画面も…………ん?
『――スキル【ドンファン・リサイタル】を獲得しました』
【ドンファン・リサイタル】……ヴァイオリンを弾くだけで女性や色事が寄って来る。
名前:鹿苑寺恚
レベル:1
TS:8901
AS:1701
MP:3893
スキル:≪自動成長≫≪らくらくヴァイオリン≫≪悪魔と契約≫≪ドンファン・リサイタル≫≪悪魔のアルペジオ≫≪悪魔の重音≫≪悪魔のピッツィカート≫≪ボーイングLv.8≫……他
称号:≪プロヴァイオリニスト≫
……なんでまた勝手にスキル習得してるんだよ?
しかもドンファンって!?
僕が困惑していると、羽衣さんが続けた。
「大変なんです、昨今の芸能界。特にテレビに依存してたプロダクションは、どこも都心の一等地にあったオフィスを手放してますから。うちの事務所もそうなんですけど……」
「はぁ……」
「何か個性的な武器がないとやっていけない時代なんです。それで社長と話し合って、前から興味があったヴァイオリンに挑戦しようってことになったんですけど……どう思いますか?」
「どう思いますかって……僕に聞かれましても……」
「先生になってくれますか?」
羽衣さんがテーブルから身を乗り出してきたので、僕は思わずのけぞってしまった。
「ただ水着でヴァイオリン弾いてるだけじゃ意味がないと思うんです。やるからにはコンクールで入賞するくらい上手くなりたい。どれくらい練習すればコンクールで入賞できますか?」
「いやだから、僕に聞かれましても……。コンクールなんて出たことないですし……」
「あんなに上手いのに? 上手い人はみんな出るんだと思ってました!」
羽衣さんは意外そうな顔をする。
「じゃあこうしましょう。先生も一緒にコンクールに出ましょう!」
いやいやいや、なんでそうなる!?
しかもまだ先生やるって言ってないしっ!?
「もちろんタダでとは言いません。もし引き受けてくれるなら――」
羽衣さんはそう言うと僕の手を掴み、自分の胸元へと持っていった。
…………ちょっ!?
僕の手の甲が羽衣さんのGカップのふくらみに接触する。その途端、全身に稲妻が走った。
なんというやわらかさだろう……?
マシュマロ、いや、この世のものとは思えない至高のプルンプルンが……っ!?
僕はおっぱいに睨まれた童貞――もとい、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなった。
「先生……なってくれますよね? 一緒にコンクール、出てくれますよね?」
「…………はい」
……信じられなかった。まさかそんな夢みたいなことが起こるはずないと思っていた。
だけど、どうやらこれは本当に僕の人生に起こった出来事であるらしい。
僕はヴァイオリンの才能を授けられ、そして――
グラビアアイドルの専属ヴァイオリン講師を務めることになったのだ。
だけどこれはまだほんの序章に過ぎなかった。
それから一ヶ月後、僕はコンクールで、恐ろしい現実を目の当たりにすることになるのだから……。
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