474話 視察と弱点
「人の街……何百年ぶりだぁ……?」
もうすぐ冬らしいが未だに空気を蝕む太陽を睨み、体を伸ばす。
彼の名はエディレン・メヴィス。四神が1柱、人神である。その実は様々な種族の力を持つ代表を神と形容しているだけだが。
四神が有名であるが(それでもごく一部に)、他にも神はいる。理に触れられるのなら神に片足を踏み込み、異世界に干渉できるのなら神と言える。
「何百年か前はこんな街もなかったはずなんだけなぁ……いやもう寝たい。帰りたい。」
眉を顰めてぐだぐだ歩く。
四神の中では割とまともなほうの神なのだが、ツッコミがいらなくなればただの怠惰な少年に早変わりだ。
「戦争とか気にせずに帰ろうか……好きにやらせておけば……いやいや、これは多分、創滅神の手が入っている。」
止まりかけた足を再度動かす。もうずっと昔、四神なんてものが生まれてしまった過去を思い出す。
あの頃は地獄であった。
ああはさせまいと、回想しながら彼は歩いていく。
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それは西暦など数えられる前の話。国などなく、村とも言えぬ集団が固まって生きているような時代。
普通の人間に魔力などなく、特殊な技能により生き抜いてきた時代。
この世界は創滅神が生み出した。神は誕生と共に世界を創造するのだ。
創滅神アヌズレリアル。それが名である。
創滅神は生み出された世界に雫を落としていく。神の力を、一滴一滴丁寧に落としていき世界を広げて行く。
適当に配置し、欲しかったら追加する。性格は雑、飽き性、そして他人の不幸や痛みが甘い神だ。
だからか、度々戦争を起こさせた。そうさせたのだ。
わざわざ異世界から人間を呼び寄せ、争いをさせたことも数えきれない。
そしてある時、創滅神はこう思う。
「そうだ、世界を作り直してやろう。」
世界は破滅に向かっていった。
そこで、4種の強者が集まった。
人間の中でも最強の、異世界人レン。
蔓延る魔物の中で知性を持ち、魔法を自由に操るヴァル。
姿なき現象であるはずの霊の長、ミュール。
空を支配する大物、ルー。
人神の元の名がレンなのは、偶然か。はたまた……
この4人が集まり、世界の崩壊を食い止め維持するという一種のチームが出来上がる。
当時の名称は「世界反乱隊」
ちなみにこれはレンが決めた。他の奴らは「お前らそれでいいん会(ヴァル)」「殺神(ルー)」「みんなでがんば郎(ミュール)」etc……のようなバカみたいな案しか出さないためにこれに決定したのである。
そこで行われたのが創滅神に対抗するための異世界人の呼び込み。戦力の増強を図った。
その戦いは現在も続き、近年は緩やかに見えるが……そろそろ怪しい頃合いだ。
人間同士の巨大な争いの後に、手のつけられないほど大量の争い事が待っている。
せっかくここまで納めた苦労が水の泡だ。そんなことをさせないためにも、四神が必要ないくらいの平和な世界を築こうと神々は歩き出すのだ。
きっといつか、あの暴君を破る人物がいることを信じて。
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「明らかに異世界人の数が合わない……存在する数と認識できる数の齟齬がある。」
帝国の中心、噴水の広場に腰を落ち着かせて考え耽る。
異世界の人間の数が異様に少ない。異世界の人間くらい神にかかれば見分けることなどお茶の子さいさいだが、明らかに異常である。
「帝国近辺にも数が……何か異世界のスキルか何かでシャットアウトしている?」
どっかの創滅神が転生させた異世界人が与してそうだと考えふけった。すると、風に乗っていい匂いが。
お腹も減ったし、覗いてみるか。そう思って立ち上がる。と、ふと嫌な予感を感じ取った。
自身の加護を与えたものは少ない。そのうちのひとつに、何かがあったように思えた。とてつもない大きさの力を感知した時のみ、感覚が共有される。
しかしこれは、単純な物理的な力ではない気がしてならない。
しかし腹は減る。脳に栄養が必要だ。神は神でも、全知全能の万能神ではない。人なのだ。
匂いのする方へと足を運ぶ。が、何故か足が前に動かない。物理的にだ。
「余の動きを止めるなんて、なかなかやるな。」
エディレンは怠惰な気持ちから一転、やる気に満ちた素敵な笑みを貼り付ける。
しかし破れないわけではない。神を超える存在など、そうそういやしないのだ。というか、いてしまったら世界が崩壊するのも時間の問題となる。
エディレンは結界のようなそれを無理矢理ねじ切り、中へ侵入する。一体どんなやつが、と思った瞬間に自身を阻む壁が消えた感覚があった。
「逃げられた?いや……余が簡単に気づかれるわけもない。たまたまか……」
人払いもされなくなったようで、人通りも増えてきた。しかし忽然と現れた魔力の気配と、漠然とした不気味な感覚がある。
観測する前にことを終わらされてしまえば、いかに神であっても特定は難しい。一瞬だけでも目眩しがができれば、それは可能だ。
「余の弱点を確実に突いている……神の介入も意識しているのか?」
うぅむ、と考え込む。道のど真ん中のため、通りすがりの歩行者とぶつかる。
「長年人間間のいざこざから目を背けていたツケがまわったか。全てがきな臭く見てしかたない。」
もう少し世間に目を向けていればと後悔するが、これも創滅神の策略だと責任転嫁。
視察のつもりだったが、本拠地に乗り込んでみようかと考える。少しくらい内情を知っておかねば、ここ数百年で消えた国の名前も知らないのでは政治に手を出そうなんて夢のまた夢だ。
彼は久しぶりに神としての役目を果たすことにした。ひと段落ついたら、新入りのルーアや魔神、霊神も含めて下剋上でもしてやろうかとも過ぎったが、流石にそこまでは不可能だ。
この世界の枠にいる限り、不可能なのだ。
下手に行動するのは、世界をいたずらに破滅へ導く愚行と捉えて相違ない。
「だから余たちは、布石を打つ……」
魔法陣が描かれる。瞑目し一段としかつめらしく呟きを落とした。
魔法は魔神の領域だが、使えないわけではない。
攻撃よりも、特殊な魔法が得意であるだけで。
空間と空間を繋げる魔法。帝国府に一直線である。
万が一にも人間如きに遅れをとることはないだろうと思うが、念の為だ。
魔力を通すと、薄く魔法陣が発光する。魔神なら光も出さず、これの数秒早く展開可能だろう。一瞬だけ視界が塞がれると、次には帝国府中枢の壁……
「へ?」
「え?」
「———さん、可愛い。」
景色は壁ではなく、うっとりと満足そうな顔の少女とメイド服姿の瑠璃色の少女だった。
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再開初の執筆でございます。
久しぶりの執筆のため、短めなのは申し訳ないです。おまけでもぶっ込みましょうか?
目と風邪のダブルパンチは流石にキツいですね……風邪ってこんなにキツいものでしたっけ。
おまけの話が思いつかない件について話しましょうか。ちなみに今話、咳を数秒に一回しながら執筆しておりました。喉が死にます。
やっぱり今回はこれで許してもらえませんか?本当に死にそうです。
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