第十五話 大火❸
森の木々、そして空は共に赤みを増し、ウヤクの視界は煉獄そのものとなっていた。
『確か四百年前のあの時も、、、』
ウヤクの脳裏には赤く熱を帯びたコクヨウの黒鉄の城が浮かびあがる。
ウヤクはセイとの生活で忘れかけていた自分の罪の記憶を鮮明に思い出し、再び涙を流した。
ウヤクは涙を隠す様に慌てて地面に伏せる。
『私には、、、涙を流す資格なんて無い、、、』
しかし抑えきれない涙で出来た染みは徐々に地面に広がっていく。
「今更泣いたって同情はしないぜ姫様。四百年前の大戦から今までずっと、あんたが生んだ不死の兵隊共に大陸の幾つもの国家が蹂躙されてきてんだ」
「私はそんなつもり、、、」
「言い訳は結構だぜ、もし泣くほど後悔してんなら俺らの為に死んでくれよ。死んでコクヨウを破滅させてくれ、それがあんたに出来る唯一の償いだ」
その言葉に納得したように、ウヤクは肩を震わせながら立ち上がった。
「分かりました。貴方の言うとおりにします」
「ああ、そうしてくれると助かる」
立ち上がったウヤクはそばにいたリリーの方へ向くと、リリーの額に自分の額を合わせた。
「今までありがとうリリー」
ウヤクがリリーにそう呟くとリリーの体は小刻みに痙攣を繰り返しだした。バタバタと何かを拒むように。そしてしばらくすると動かなくなり、口元から淡く光る靄のような球体が放出された。リリーの魂だ。
魂がゆっくり上昇し景色の中へ消えるまで、ウヤクは目を逸らさず見つめ続けた。
残されたリリーの体はびくともせず、徐々に温度を失っていく。
「さぁ、そろそろ行くか」
退屈そうに一部始終見ていたタイカはリリーの遺体に向けて手のひらをかざした。すると瞬時に掌の前に火球が出来上がった。タイカはそれをリリーの遺体めがけて飛ばすと、リリーの遺体に炎が広がった。
「何をするのです!」
「いやぁ、また蘇りでもしたら面倒なんでな」
ウヤクはリリーに寄り添った。肉の焼ける匂いが辺りに充満していく。
さっきまで森を駆けていた愛馬は黒煙を上げながら徐々に黒い塊へと姿を変えた。
「時間がねぇんだ、早くしてくれ」
「はい、、、」
タイカの後に続くウヤクのローブは所々焦げて穴が開いていた。
「森を抜けたとこに馬車が用意してある」
「、、、」
「帰ったら綺麗な服用意してやっからよ、ルエンは刺繍が名物なんだぜ」
「、、、、、」
「まぁ、話す気にもなれねぇか」
タイカは反応のないウヤクに話しかけ続けている。気を遣ってとか場の空気をどうこうなどと言う理由はなく、ただ喋るのが好きなのだ。
「ウヤク殿ーー!」
ウヤクの背後から突然叫ぶような声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
「何だよ男連れ込んでたのか姫様ー」
「ウヤク殿ーー!」
二度目の叫びと共にタイカとウヤクの前に姿を現したのは一人の青年と一匹の銀狼だった。
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