第八話 魂操術❹

あまりにも壮大な空に吸い込まれそうになった。


呼吸も時間も止まったような感覚。


頬に触る柔らかな銀色がようやくセイを我に帰らせた。


「行きますよセイさん」


セイの知らぬ間にウヤクは立ち上がっていた。


「どこへ行く」


「私の騎士達のところへ」


「彼らは死んでいるだろう」


「弔いたいのです。私の基にしたがって」


セイは黙って頷くと、立ち上がりウヤクの後に続いた。


森はいつもよりも暗く影を落としているように見えた。嗅ぎ慣れない腐臭が何処となく漂っているのか、セイの隣では狼が首を左右に振りながら鼻を利かせている。


一日経ってしまった木々の血痕は拭う事が叶わない程深く染み付いて、ウヤクの目にまざまざと己の無力さを見せつけた。


小高い丘を登り、ひらけた場所へ出ると一人の騎士が木にもたれかかるように座り込んでいるのが見えた。華美な装飾が目立つ鎧。


ウヤクは足枷のついた足で騎士の下へ駆け寄った。

息遣いは聞こえてこない。


ウヤクは騎士の近くでしゃがみ、胸と胸を合わせるように体を寄せた。


セイはウヤクが騎士を抱きしめているように錯覚した。


ウヤクが顔を上げると、木々の間から丘の向こうに広がる街並みが見えた。街の中心には一つの城が見える。艶の無い黒く重厚な城。影絵でも見ているかのように景色の中に不自然に存在している。


「セイさん、あれを」


セイがウヤクの指さした方を向く。


「あの街が、城が、私と騎士達の故郷です」


「あれが、そうか、、、」


「あとの騎士達もここへ運んで欲しいのですが、手伝ってくれませんか」


「わかった」


二つ返事で了承すると、セイは自身の魂操術を使い森を駆けた。


十人全員が揃うのにそう時間は掛からなかった。

ウヤクの前によく知った、しかし名前も知らない騎士達が並ぶ。


「セイさん、、、」


「なんでも言ってくれ」


「この人達を埋葬します。人が入る程度の穴を人数分お願いできますか」


「わかった」


穴が全て掘り終わる頃にはセイの体は土にまみれていた。


その後二人は騎士達を穴の中ににそっと眠らせ、リリーがくわえて来た枝を埋め戻した土に立てた。


「ありがとうございます」


セイに礼を言うウヤクの声は微かに震えている。


日が暮れてウヤクの顔に影を落とす。


セイはウヤクの顔を見る事は無かった。


「これが貴女の基か」


「、、、はい」


二人は肩を並べ夜が来るまで騎士達と共に過ごした。

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