第七話 魂操術❸

一時間程のち、さっぱりとした表情でウヤクはセイの前に現れた。


「お待たせしました」


ウヤクは近くにあった丁度いい大きさの岩に腰掛けた。


セイはその近くに行き、地べたにあぐらをかいて座った。


セイの後ろには1匹の狼がいる。


昨日は暗くて分からなかったが、風に靡く銀の毛は水面に映った一等星のような、掴みどころのない美しさだった。


ウヤクが見惚れていると


「話の続きを頼む」


と痺れを切らしたセイがウヤクを呼び戻した。


「失礼しました。昨日の話の続きですね」


「ああ、姉さんを甦らせる方法はあるのか」


「お姉様の体は無くなっているので、人として元に戻す事は出来ませんが、意識だけを呼びもどすことは出来るかも知れません」


「それは昨日言っていた何とか術でか」


「魂操術です。あと関わりの無い私ではやはり無理なのでこれから貴方に魂操術を教えます。しばらく付き合うと言ったのはその為です」


「なるほど」


「それに長い時を使って体得したとしても確実に出来るかは断言できません、どちらかと言うと成功する確率は低いです。それでも−–−」


「構わない」


最初から決意を固めていたような揺らぎのない眼光がウヤクに向けられていた。


「分かりました、というか何となく分かっていました」


「、、、」


「ではまず魂操術というものについての説明をします」


「勉強はあまり得意ではないのだが」


「たぶん、セイさんなら聞いてる内に色々と気づくと思います」


ウヤクは数ミリ眉間に皺のよったセイを置いて話を推し進めた。


「魂操術とは、魂を源として使い様々な事象を起こす技です」


「魂、、、」


「魂とは、肉体から離れた人間や動物のなんというか、、、意識のような物です」


「姉さんも今は魂だけという事か」


「はい、そして魂操術はその魂と自分とが同調していく事で発現します」


セイの眉間の皺が深さを増した。


「難しいですか」


「ああ、まだ何とも言えん」


「では、セイさん、昨日の盗賊相手にしたように思い切り飛んでみて下さい」


「それは構わないが、意味があるのか」


「おおいに」


セイは難しい顔のまま意識を足に集中させた。足に力を込めその場で垂直に跳び上がる。


二十メートル程跳ぶとまた同じ場所に土煙一つ起こさず見事に着地した。


「今セイさんは跳び上がる時、兎のように跳びたいと思っていたのではないですか」


「ああ、そうだ、うさぎはよく食べるから、身に宿すのが容易い」


「それがセイさんの魂操術です」


セイはきょとんとしている。セイにとっては日常当たり前のようにやっている事だったからだ。


「こんなもの誰でも出来るのではないか」


「いえ、私には出来ません」


「それは、足枷があるからだろう」


「そういうことではないのです。私には兎の魂、食べた物の魂というのは感じ取る事ができません。魂操術は術者の魂というものに対しての解釈によって発現する力が違うのです」


「そうなのか」


「はい。その解釈の事を私達はもといと言います」


「セイさんの村では死者が出たらどうしますか」


「村の外に出し動物の餌にする、そうする事で食った獣の中で死んだ奴は生き続ける事が出来るのだと、そう教わった」


「それがセイさんの基というわけです」


「そうなのか」


「はい、なのでセイさんは食したものの魂を体に取り込みその能力を体現できるのだと思います」


「ああ、なるほど」


セイはウヤクの話を完全には理解出来なかったものの何となく納得した様子を見せた。


「お姉様も、セイさんと同じく食べられる事で魂が受け継がれていくという事をごく自然に受け入れているからこそ、狼の中に留まることが出来ているのです」


「村を出るまでは皆同じ考えだと思っていたが」


「魂の解釈は国や民族によって様々です」


「そんなに沢山の種類があるのか」


「はい、世界は広いですから」


セイは青く澄んだ空を見上げた。


森の木々は突然湧き出たセイの好奇心をくすぐるように、風に揺れさわさわと鳴いている。

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