陽が隠れたら始めどき
午前10時頃、こちらの世界での時間は分からないが、少し日が昇りじっくりと王都の全てを温めはじめた頃。
アカリは今か今かと待ち構えていた。
「わかってるよ、落ち着けってのはわかってる、キトラ。何が起こるか分からないんだ、それに....」
アカリは後ろの方にソワソワとポケットの中の個包装を手一杯につかみ取り、それをまた戻すアランを親指で指して言った。
「あの人の方がやばくない? さっきからソワソワしっぱなしだよ」
「そりゃそうっすよ。偶然とは言え先輩が血眼になって探していた手がかりなんすから」
キトラは冷静に動いた建物の影に移動しながら言った。
前日、フラフラと本部に帰ってきたアランを呼び、闇市で起こった事を話した。
「手がかりが見つかった?!どういう事?アカリィ…ああ、成程。条件付きの買い物か…盲点だった。あんなとこに売ってるものなんて死んでも買いたくないから…そりゃ見つからない訳だ」
あっさりと受け止めるアランにアカリは少し驚いた。自分がその立場であれば色々な感情の混じってあんな返答はできないだろうと思ったからだ。
だけどあの人は…そういう人なんだろう。はじめて会ったあの時も、その前からも既にアランという男の振る舞いは変わらない。
そんな考えは覆う影とキトラの声で引っ張り戻された。
「来ました。日食っす」
辺りは遮光カーテンが降ろされたかの様にゆっくりと西側から暗くなっていった。目の前にいたはずの買い物を終えて立ち話している老婆も洗濯物を物干し棒を使いピンと張られたロープに干していた若い女も影に飲まれるように見えなくなっていた。
アカリは自身の魔法を使い小さな炎を時間をかけながら指の先に灯した。まだ時間がかかり、炎が安定しない。感情に左右されやすい魔法を平常時に使うのは振らなきゃでない飴の缶を振らずに出すようなもので今のところ使い物にならなかった。
「暗いね、人がいなくなったみたいだ」
「アカリィ?そこにいるんだよね?キトラももっと火に近づきなよ」
「ふぇ!....いやいいっす」
キトラが暗闇の中で何かに触り驚いた直後、無数の白い線が建物や道の輪郭をなぞるように走っていった。
「なんだ?周りが....光? 」
アカリは指先の炎を左右にかざすが、その必要のない程に白い線の数々は壁の煉瓦の模様や石畳の隙間を通り白く照らした。黒板に白いチョークで絵を描いたような光景が目の前に広がる。明るく照らされているが自分達以外のすべての色が失われているのはとても不気味であった。
困惑してあたりを見回す三人にジジッという音が聞こえる。その後、誰かの咳払いの後、落ち着いた女の声が建物に反響する。
「えー、マイクテスマイクテス。エリクサーをお求めの皆々様、ごきげんよう。私の助けを欲してここまで来たようですね。ですが残念、エリクサーは1つしかありません。なので探して下さい。この街に25本の瓶を隠しました、1つだけが貴方たちが探し求めている勇者のエリクサー。あとは私の試作品の数々です」
「あんたか?ルーシーを、僕の妹を…!」
アランがその声の聞こえる方へ恨みを込めた叫びを向けるがその声は聞こえていないかのように続けた。
「試作品…アイツらの売っていたドラッグの事っすか」
キトラは右手を固く握り、アカリは叫ぶアランを心配そうに見ていた。
「ルールは簡単。この日食が終わるまでに本物を見つける事。判別方法は…目の前にある円盤。そこに一滴垂らすだけで判るはずです。それでは5チームの皆様、御健闘を祈ります」
その音は途切れ、しばしの沈黙。アランは音の方を向いたまま固まり、アカリとキトラは互いをちらちらと様子をうかがっていた。
「25本の中から本物を探す....か。日食と言ったら数時間ってところだと思うけど。この空間だしな....時間が分からない。それに....」
アカリがキトラの方を向くと。
「
ルールは本物を時間制限内に探すこと。参加チームは5つ。あまりにもルール説明がなさすぎる。
「....好き勝手解釈していいって感じだね。アカリィ」
アランはアカリたちの方に歩きながら言った。右手には円盤を持っていた。
「…アランさんそれって」
アランが持っている円盤には中央に大きな円が3つ、周りにはそれらを支えるように幾何学的な模様が所狭しと彫られていた。
「これが判別機?こんなんでわかるんすか? 」
「まあ、既に薬品も魔法も測る術は確立している。その応用だろうね」
アランはあたりを見渡してその線の行く先を目で追いながら言った。
「それにこの空間、おかしいにもほどがある。魔力結界だとしても人工物に覆うように張れるものなんて聞いたことがない。あまりにも高度で不気味な所だ、何があるかわからない。気を付けて行動しよう」
魔力結界とは元は自分を守るために編み出された戦術的魔法のひとつで魔力を変換させずに固定させる事により魔法を一定量吸収分散できるというものらしいとアカリは聞いた。
「他の参加者がどんな奴らかわからないっすけど人から奪うってのを視野に入れるやつも出てくる可能性も....っすね」
キトラは清涼菓子の容器みたいな入れ物からサッと小さな粒をいくつか手にとった。
「そうなると…戦闘は避けられないか」
アランは目に覚悟の色を灯した。隠された太陽の方角を見て何かを思い、軽く下唇を噛んだ。
***
「やはり暗いほうが落ち着きますね、貴方。でもいいですか、人様の命を扱うときには」
わずかにずれる4つの足音。一定のリズムで乱れる二人分の足音はかろうじて地を這うヤモリが聞こえる程度だった。路地裏を人が通る。人影ではなく人が。
「わかっているさ。明るく楽しく元気よく、だろ? 」
「ふふ、貴方はやっぱり笑っている時が一番素敵ですわ」
二つの影は二人の後を追おうとはしなかった。
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