荒地の武装組織

「ほんっとうにごめんなさいぃー!」


 片岡成は机に手を付き謝罪した。先日の戦闘によって自身はあわや戦闘不能、新人の佐原燈に重症を負わせ重要人物ボドラスは氷漬けでの帰還を上司であるドーガムに咎められたためである。


「ったく、新人の前でいいとこ見せたいってのは分かるんだが、その戦闘欲求は何とかしてくれと何度言ったら…」


 ドーガムは呆れたようにずり落ちたスーツを着直した。そしてその後ろから小さなツインテールの女の子が顔を出す。


「そーだよナルちゃん、うちのただでさえ少ない戦闘要員が二人も減っちゃうとこだったんだよ!ダメ!だよ!」


 ナルはうなだれて反省をしているようだ。弱々しい声でごめんなさいと連呼している。


「まあ、よかった無事で。なあミル、そういえば新人の教育係は誰になったんだ?誰もいないならそのままナルに…」


 ミルと呼ばれた薄いブロンドのツインテールの少女はドーガムの呼びかけにまた顔をひょっこりと出して答える。


「えーっと、アラン兄ちゃんじゃない?ノリノリで歩いていくの見たよ」


 アランの名前が出たとき、ドーガムはやっちまったという顔をし、ナルは机を叩き、驚きを表していた。あーっという落胆のため息だけが流れ、沈黙の末、成り行きに任せようという謎の相槌が二人の間で交わされた。


(あいつでよかったのかなー)(あいつでいいのか…?)

 二人の考えていることが珍しく合致した瞬間であった。




 アカリが目覚めたとき、横には青がかった髪の男が座っていた。白く透明感のある肌、腕、首その全てが女性と比べても遜色ない程に美人であった。その男の前では差し込む日差しですら演出するための道具に過ぎなかった。男はアカリに気づき、笑顔で話しかけた。


「やぁブラザー、顔色がまだ優れないね。二日酔かい?いいブツができたんだ、飲んでみてよ。酔い以外にも色々吹っ飛んでどこが吹っ飛んだのかわかんねぇくらいにハイになれるよ」


「え、あーいや、結構です」

(誰…?ブラザー?兄弟なの?)


 アカリには状況が飲み込めていないようだった。というか目の前の美人とその口から放たれる言葉の落差で脳が処理を止めてしまった。そんなアカリを見て、アランは思いついたように口を開く。


「あー、僕はアラン。君が何も知らないって隊長に聞いて、ここの事を教える係に立候補したってわけだ。お近づきの印にドラッグいる?これは…何だっけか、あれ?………はい、あげる」


(自己紹介されたのに何一つわからん!そしていらん!)


「あ、いや。そんなことよりここは…?」


「ここはね、勇者の恩恵に抗う団体、反勇者武装組織ディザルト。ここにはね、君みたいに勇者関連の事でキレてる奴が沢山いる。勿論、僕もその一人」


 アカリには笑顔で説明をするアランの目には膨大なまでの怨嗟が含まれているような気がした。


「武装組織とは名乗ってるんだけど、肝心の戦力が足りなくてね。ほとんど事務と清掃員だよ。だからこそ、君には真っ先に主戦力になってくれないと困っちゃうんだ。僕が徹底的に強くしてあげるから、覚悟しといてね!勿論イリーガルな事はしないよ!この組織はクリーンだからね…ぷっ、ハハハ。…清掃員、沢山いるからね…ククッ」


 自分のギャグがツボにはいってしまったようだ。ずっと口を押さえて笑っていた。アカリはまだわかっていない様子、苦笑いである。主戦力、強くするという言葉が気になって離れない。


 ようやく笑いが収まったアランは一呼吸置いて静かな笑みを浮かべ優しく語りかけた。


「まぁ、なんにせよまずは色々な事を知らなきゃね。この世界の事、魔法の事、そして勇者の事。敵を知り己を知れば百戦危うからずってナルが言ってたよ。まぁあの子はそういうタイプじゃないけど」


 座っていたアランは腿を叩き、立ち上がり急かすように手を動かした。


「じゃあ、早速だけど勉強だ。知識ってのは武器になる、何も知らないってのは武器を持ってないのと同じさ。よし、そうと決まれば外に行こう!こんな殺風景なとこじゃハイになれない!さあさあ、着替えちゃって!」


 掴みどころのないというか本心が見えないアランに急かされ着替えをし、外に出る。今居た建物には見覚えは当然なく、街の景観の一つの様な様子の少し大きな建物であった。


「よーし、ホントは一本打っときたいんだけどナルに怒られちゃうからやめとくよー。まずは魔法についてざっくり説明するね。魔法ってのは空気中に含まれる魔素っていう物質、それを同質量の物に変換する力のことを言うんだ。僕だったら水に変えられるし、ナルだったら氷にって感じで。ここまでは大丈夫かな?」


「なるほど…それって一人ひとつしか変換する力を持ってないってことですか?」


「そゆこと。魔法ってのは魔素を同質量分だけ他のものに変える、ここ重要だよ!」


 するとアランはすぐに手のひらから水を出して見せた。それは唯の水ではあったが一見何もないところから生成される水は未だに神秘的で危険な香りのする代物というイメージをアカリに再度持たせることとなった。


 手からあふれる水は日光できらきらと光って地面に落ちてゆく。誰かが簡単そうに何かをしているとこれは自分にもできるのではないのか?という自信にも似た疑問が生まれてくるものである。それはアカリにとってもそうであった。しかし大概そういう時は案外難しいもので、アカリは見様見真似で手を前に出したまま突っ立っている。それを見てアランは笑うのだった。


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