万薬いらず
第二章プロローグ
都市の灯りは外周から消えていく。娯楽と費やすものの多さが部屋を明るく維持させる。夜も更けその聳え立つ大きな城の灯りでさえ消え、街灯だけが仄かに照らす、そんな窓の外の景色。それが好きだ。
真っ暗な闇の中、小さな光を放ち存在を示す。ここにいるのだと声を上げられずに部屋の中にいる私に助けを求めるのだ。夜風もあの星々でさえも。
今日の会合、名前を覚える気もしない有象無象はどうにかして私の研究に関与してこようとした。助けを求めることをせずあいつらはどうにかして助ける側に、与える側に回ろうとしてくるのだ。もう少しだ、もう少しで誰も病に倒れることはなくなる。
そしたら…
彼女はノートを閉じ、記憶の中の思い出せない楕円達の中から一つの思い出せる顔を見つけた。
彼は、なんていう名前だったか。顔は思い出せる、それだけでその他大勢とは違うのだが研究ばかりの日々で人の名前を覚えることができなくなっていた。
彼は――誰からも同じ視線を、羨望や信頼を向けられていた。王からの直々の依頼を受け問題解決をしている、勇ある者、勇者と呼ばれているらしかった。
「いいなぁ…」
その言葉が口からこぼれ、はっとして我に帰る。すぐにそんな俗物的なものの為に薬師になったわけではないぞと戒める。
違うぞ、根幹は揺るぎなく…の為。
あの眼と助けを乞うあの震えた声、自分だけが縋る対象であり、その者達の中で私という人間が確かに存在しているあの感覚…。
「疲れてるのよ、寝なくちゃ…」
灯りを吹消し、ベットに潜り込む。目を開けても暗闇ままの中でゆっくりと瞼を落としていく。
あの男なら、作れるのかもしれない。そんな感覚が芽生えたことに驚いた。あの赤くひきずりこまれそうな目で心の奥底から何かを引っ張られてしまいそうな予感があった。
大丈夫だ、他者からの承認欲求は普通の事だ。何も問題は無い。
早く寝なくては、明日も早いんだから。
助けを乞うモノ達からの、すべての感情を欲するこの感覚も、至って普通のことだから。
おやすみ、街灯達よ
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