死二対課申請書類 4
――なんで、こんなに探しても、書いて消せるものがないんだろう。一本くらいあってもいいだろうに……。
女は今住んでいるボロアパートの部屋の中を探した。自らの存在を消すための分厚い書類へ書くための何かを。
だがしかし、女は見つけられない。それもそのはず、女は履歴書をボールペンで書きはしても、書いて消すような事は、かなりな時間してこなかったのだから。下書きがいるような大切な書類は、しばらくの間、書いたことがない。女は、そんな書き直すこともできない自分の今までをふと、振り返ったようだ。
――そうか、いつも同じ履歴書。私の人生の履歴書。途中が空白の履歴書。毎回同じことしか書かない履歴書。そんな自分に、書き直せるものなんて今までいらなかったものね………
女は、母親に背中をおされ、どこかのアイドルオーディションに合格し、だがしかし、その世界は、醜く精神的に辛いものであった。地下アイドルだった彼女はいつからか、誰かと比較される、自分を切り売りする世界に馴染めず、ストレスから来る脱毛症で毛が抜け落ちて、今に至ったのだった。
もう商品としての価値がない彼女は、その本来もつ容姿だけで、かろうじて、地下アイドル事務所に在籍できていた。数年前までは、だが。
年齢、歌唱力のなさ、そして、元々は美少女ともてはやされても、今はストレスで髪の毛の抜け落ちた女。頬や目尻や口元に年齢以上のシワが寄ってしまった女。
そんなこの女は、数年前に、在籍していたアイドル事務所から解雇を言い渡されたのだった。と、同時に、実の母親からも見放されてしまう。
「あなたがアイドルになることが私の夢だったのに!」
女の母親はそう言い放ち、それから、この女との連絡を一切断ち切ってしまった。この女も、その言葉を聞いてからというもの、母親に会いに行ったわけではないのだが。
――なんでこんなことに、私はなってしまったんだろう……いいえ、もう終わりにしたいの。もう、もうこんな人生を、存在全てを消して、終わりにしなくては……。
女は、また、立ち上がり、古いしなびた布団をみて、またさっき被っていた人工の毛が乱れたカツラを被る。そして、小さな薄汚れた鏡を見ながら身なりを整えて、夜の街へと出かけて行った。書いても消せるものを買いに。女はまた部屋を出たのだった。
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