訪問
カランコロン
「いらっしゃいまし……って、あら? 本日はそのようなお姿で?」
女店主は私の姿に一瞬驚き、でもすぐにいつもの冷静さを取り戻して私に声をかけてきた。
「そのお姿でお越しということは、もうそろそろなのでございますね」
「そうかもしれないね」
さすがよくできる女だ。もうそろそろだということをすぐに見抜くとは。
「とすると、こちらの帳面ももうそろそろお渡しの時期なのでございますか?」
私は女店主のいる奥のカウンターに行き、女がいつも書いている帳面を覗き込む。そうだな、ここは一つの頃合いか。思った通りの出来栄えだ。
「なかなか良い出来ではないか」
「そうなんでございますか? 私はただ書いているだけでございますから」
今日は黒い地紋に小さく可愛いクリスマスツリーやリース、サンタの帽子などを手縫いで刺繍している着物か。なんとも。この女らしい。そこに天使の絵の染付けの帯とは。この時期にしか着れない、なんとも贅沢な着物じゃないか。
私は今年一年の労いの言葉、いやそれもおかしいか、時という概念は私たちにはない。そこは永遠の中を行き来できるのだから。そう思っていると女店主が珍しく自分から私に口を開く。
「しかしいつものような紳士的ではない、このような人間のお姿でいらっしゃるのはお珍しいことでは?」
いつもは闇に隠れている私が今日に限ってその辺にいるような人となりをして現れたことを言っているのだろう。
「このような人の形をせねばわからぬこともあるからな」
私がそう言うと、女店主は確かにそうでございますねと微笑んで、襟をスッと撫でた。
「では、いただきましょうか」
全くこの女は。全ての行動に無駄のない女店主が言うので、私は女店主の差し出した掌に意識を注ぐ。
黒くもやもやしたものが私の全身をゆったりと包み込みながら、流れを作っていく。それは私の頭上にまで届く渦となり、その黒い渦は次第に範囲を狭め、そして、一つの小さな四角い塊となる。
「これだな」
「これでございますか」
その小さな塊が女店主の掌に乗ったことを確認し、私はまた闇の中へすぅっと消える。
あとはこの女店主が事務的にやってくれるだろう。
私はあとはその結末を私として味わうだけ。最高のご馳走だ。
さてさて、どんな美味たる世界が味わえるのか、楽しみで仕方ない。
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