藁人形 4
―― 本当に写真を貼ればお父さんとお母さんになるんだろうか。
少女はそんなことを思いながら、なんだかバカげてると思って自宅に帰る。ほどなくして祖母が帰り、いつもの二人の夕飯を食べる。
「明日の土曜日は事業参観だって今日パート先で聞いたけど、ごめん、シフト入っていて、今回も行けないかもしれない」
少女の祖母がそう切り出してくるので、少女はいつも通り笑顔をつくり、
「大丈夫! こない家の子もいっぱいいるから! おばあちゃんいつもありがとう」
と言いながらなんでもないように夕飯を食べた。そして、片付けを済ませ、洗濯物を洗い始める祖母に今日もありがとうと言いながら、自分の部屋に戻った。
―― あのお店の女の人が言ったことは本当かどうかはわからないけど、もし本当なら、おばあちゃんに迷惑もかけなくても済むし、私も誰かが来てくれる家の子になれる。
少女はそう思い、急いでカバンから藁人形を出して、机の引き出しから、もうこの世にはいないお父さんとお母さんの写真を出してきてその藁人形に貼った。
―― まさかね、本当にあるわけないか。
すると、藁人形から煙が立ち上がり、その煙は部屋全体を覆い始めた。
―― 火事になっちゃう!? どうしよう!
白くもやもやとした煙の中に、ぼんやりと人影が映る。少女は困惑した面持ちで、驚く声を出すまいと口に手を当てながらそのもやもやとした煙の中の人をみた。
―― 写真の人だ。
少女の目の前には、この人たちが父親と母親だといつも祖母に聞かされてきた写真の人がいた。
「こんなに大きくなって」
「本当に」
どこからともなくそんな男の人と女の人の声が聞こえて、少女はもっと驚いて体を硬くする。
「驚いたよね? ごめんごめん、ごめんね、一緒に今いてあげられなくって。本当にごめんなさい。いつかみこちゃにそう言って謝りたかったの。なんで一緒にいてあげられないんだって、思って…」
「みこ、大きくなったね、僕が知ってるのは、本当にまだ小さい頃だったから、こんなに大きくなって、もうすぐ中学生だなんて僕もびっくりしちゃったよ」
―― まさか本当のお父さんとお母さんなの?
「1日だけ、一緒にいれる。1日だけだけど。でも一緒に親子でいられるんだ。明日の授業参観、僕たちにいかせてくれないか?」
もう死んでしまって会えないと思っていた少女の父親と母親は藁人形の奇跡により、1日だけ、少女の前に存在することとなった。
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