古い本 2
カロンコロン。
―― なんだろうこのお店。いろんなものがごちゃごちゃ置いてある。でも、雰囲気は映えるわね。
「あらあら、お珍しい、お若い女性が来ていただけるなんて。どうぞ見ていってやってください。ただし、お客様が気にいっても、そのものがお客様を選ばなければお売りすることはできませんので、その辺りご了承していただければぜひに」
「はぁ」
―― 何? このおばさん。めんどくさ。これきっと写真撮ってアップしていいですか? って聞くと断るタイプかも。まぁいいや、ネタとして書けばいいんだし、写真は他の物でも。
女はそんなことを何気に顔に出しながら、ごちゃごちゃと狭い店内を物色しながら歩く。別に欲しいものなんてない。ただ今日のネタが欲しいだけだと思いながら。
―― 古い時計に、古い人形、まぁ、骨董品屋って感じか。骨董品屋にいってきましたって事で書けばいいか。
女はそんなことを考えながら腕を組み店内を見て歩くが、ふと、古本が並べてある棚に目がいった。
―― これ、あのノートに似ている?
女があのノートと言ったのは、中学時代に地味で目立たない同級生とクラスの誰にも見つからないように密かに交換していた鍵付きの交換日記ノートだ。ノートというよりは、しっかりと表装された古い本に見えるノート。
女はそれを手に取る。記憶の中のように、小さな鍵がついている。開けることはできないのかと思い、棚に戻そうとした時、奥のカウンターにいた薄ねず色の着物を着た女店主が女に話しかけた。
「あら、それを気にかけていただけるなんて。それは、ある人がここに置いていったもので、確か、昔大切な友人と交わした思い出の品だとか」
―― え?まさかね。でも、なんだか気になるし、もしそれがゆうこちゃんとの交換日記だとしたら、これはすごくバズるかもしれない。
「これ、おいくらですか?」
女は女店主に棚に戻しかけた古い鍵のついたノートというか、本のような物の値段を聞いた。
「それは、おいくらかはまだ決めておりません。とてもプライベートな物のような気がしておりまして。果たして、それを欲しいという方が現れるかも、わたくしはわからなかったものでございますから。でも、もしそれが気になるのでございましたらば、その物の嫌だという感じはお見受けできませんので、一度持って帰ってみて、貴方様がそれの価値を決めていただいてもよろしいかと」
―― 何を言ってるの? 私が決めていいってこと?
「では、これ買っていってもいいのですね?」
「えぇ、でもその前に。どれくらいの価値があるものかが私には分かり兼ねますので、一度お持ち帰りいただいて、その価値をわたくしに教えていただいてからお代を決めるということでいかがでございましょうか?」
―― めんどくさい。それって、また私にここにこいってこと?
「もう一度お越しいただくのはお手数だと思いますので、もし不必要であらば、お電話いただければと。その際はわたくしが取りに伺いますので」
―― 取りに来るとか、それもめんどくさい。お金はあるんだし。
「いいです、これください。今買っていきます」
「そういうわけにはいきません。貴方様にとってその物が価値のないものかもしれません」
―― もう! なんなの! めんどくさい!
「じゃぁ、また明日ここにきます。家に帰る通り道だし。いらなかったら、そのとき返します。それでいいですか?」
「はい。お手数おかけいたします」
―― まぁいいか、明日もここ通るし、ネタにはなるし。変な骨董屋で変なおばさんに変なこと言われた件とか。
「じゃ、これ持って帰りますね。明日また来ます」
そうして、女は自分のマンションへと帰った。
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