古い本 3

 女は自分のマンションの部屋に戻り、電気をつける。


 ―― 何だったんだ。あの店は。今まであることにも気づかなかった。でも、今日は書くことが出来て良かった。変な骨董品店を偶然見つけて、思い出の品かもしれない物に出会っちゃいましたとか、うん、なかなかいいと思う。


 女は、小さな肩から下げる鞄に入りきらなくて手に持って帰ってきたその鍵付きの古い本をソファーに投げた。


 ―― まずは化粧を落とさなきゃ。


 女は風呂のお湯をため、その間中ずっとスマートフォンで自分に届くコメントを眺め、ちょうどいい頃合いで、そのコメントにまとめて一言メッセージを打つ。


 ―― いちいち全部に返していたら時間なんていくらあっても足りない。ここらで全部読んでます的なメッセージ全体に打っとけばありだと。


 そうこうしているうちにお風呂が沸いた音楽が流れるので、女は服を脱ぎ、洗濯機の前に放り投げ、風呂に入った。入念なメンテナンスを女は身体に施し、髪を乾かす。


 ―― さてと、今日の夜のアップは加工したスッピンで出しておしまいでいっか。


 ふと、ソファーに投げ捨てた変な骨董屋で1日借り受けてきた鍵つきの本が目に入る。


 ―― めんどくさい。明日また返しにいかなくちゃ。でも、これもネタとしてはいいから、今開けるか。


 女店主からとりあえず1日だけ借りてきた古い本に、帰り際に渡されたおもちゃのような鍵を差し込むと、いともたやすく古い本の鍵は開いた。


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