第二十三話 ゴチになります! ランチと魔導書
小さな騎士団長、ヴォルタによる
「セィッ! セィッ! セィッ! セィッ! セィッ! ヤァッ! タァッ!」
二つ名である「雷撃のヴォルタ」の示す通り、彼女がパンチやキックを繰り出すたび、
「ドリャアアアアッ!」
そして、仕上げに放った強烈なアッパーカットで牛飼いを空中高くに
「す、すごい……」
「っかーっ! やっぱエゲツないで、この
「この
真っ黒焦げになって、頭から落ちてきた牛飼いの男を見下ろしながら、ヴォルタは小さく
「ねえ、あの人、死んじゃったの……?」
「いえ、さすがのヴォルタ姉様もそこまで非道ではないっス」
心配する咲季をよそに、ヴォルタは後ろに背負った
「——
ヴォルタの呪文とともに、牛飼いの男は光に包まれた。すると、なんとつぎの瞬間、男は何事もなかったかのように元の姿に戻ったのである。
「イテテテ……どうしちまったんだ、俺は?」
首筋を押さえながらゆっくりと起き上がった男を見て、ふたたびカッシュが驚きの表情を見せた。
「
この『ドラゴンファンタジスタ2』で言うところの蘇生魔法は、死んだ者をこの世に生き返らせるほどの万能な魔法ではなく、あくまで瀕死の状態から復活させるにすぎない。だが、それ相応の魔力を持ち合わせていなければ、ここまで完璧な結果に導くことはできないだろう。
「さて、どうだ貴様。もういちど、私と勝負してみるか?」
あらためてヴォルタの顔を見た牛飼いの男は、情けない悲鳴を上げながら全速力で逃げ出していった。体の傷は完全に癒えたように見えても、彼の心にはおそらく一生消えることのない「
「フン。……で、怪我をした牛はどうだったんだ?」
ヴォルタは
「はいはい。さっき
「あの牛飼いさんもねぇ。ちょーっと落ち着いてお話ししてくれたら、あんなに痛い思いしないで済んだのにねぇ」
「そうか。ヴィヴィ、ヴァニラ、ご苦労だった。……ヴェルチェスカ!」
「はっ! 団長閣下!」
ヴォルタは、そばに呼び寄せたヴェルチェスカをその場で回れ右させると、鞘に入ったままの
バシィッ!
「ひゃいっ!」
ヴォルタのフルスイングをまともに尻に受けたヴェルチェスカは、(決して誇張ではなく)十メートルほどぶっ飛んだ。
「牛を傷つけるなと言っただろうが。未熟者めが」
「ご指導ありがとうございました、団長閣下……」
地面に突き刺さったまま、この新米
「さて、サキエル君とカッシュ君。どうだねこの後、昼飯でも? おごらせてもらうよ」
もちろん、騎士団長のこの誘いに首を縦に振らない選択肢を持つ者など、この世にいるはずもなかった。
午前十一時四十二分、冒険者の食事処「
ここは、王都アリアスティーンではそこそこに名の知れた、迷宮探索者御用達の大衆食堂である。昼間は酒類の提供はなく、
「さあ、君たちも遠慮せずに好きなものを食べてくれ」
ヴォルタ団長とその妹たちは、それぞれが手にした
「は、はい。ありがとうございます……」
席に着くやいなや、ものすごい勢いで料理にガッつき出した四人の
(やっぱり、
(っちゅうかジブンもついこないだ、こういう食い方しとったやん)
(うん。ちょっと反省してるわ)
十数分後、ワイルドかつヘビーな食事にようやく一息ついたヴォルタは、野菜のたっぷり入ったスープをようやく飲み干した咲季に声をかけた。
「ところで、サキエル君」
「はい」
「君の持っている、その大きな古い本……それは魔導書かなにかかな?」
ヴォルタは、咲季が手元に持っていた巨大な革表紙の本に目をつけて言った。
「え、ええ。そうですけど……これがなにか?」
「うむ。すまないが、すこし中を見せてはくれないか?」
「あ、あのぉ……それは……」
咲季は明らかに動揺した様子で、隣の席のカッシュを見た。禁書かもしれぬ生きた
(どうしよ?)
(んなもん、見せへんわけにいかんやろ。ワイは、雷撃で黒コゲにされんのはイヤやで!)
と、アイコンタクトで会話したのち、咲季はおずおずとマドラガダラの
「ふうむ。これはどうやら超古代文字か」
「チョコがどうしたって? ……ああ、超古代文字ね」
「へえ〜、なんだかすごいヘンな字ねぇ。これ縦書き? 横書き?」
「さすがは団長閣下! こんなにむずかしい
「いや、さっぱりわからん」
そう言うとヴォルタは、両手でバタンと挟むようにして
「君は、この字が読めるのか? サキエル君」
「……ええ、まあ、だいたいですけど」
「そうか。どうやら、かなり魔法の研究に長けているようだな」
マドラガダラの
「そんなサキエル君の魔法の腕と知識を見込んで、私からの頼みをひとつ聞いてほしいのだが」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます