第二十一話 わぁ、タイガー? 勇猛華麗四姉妹
「総員、かかれっ!」
「イアッ!」
中央広場の騒ぎが大きな人的被害もなく静まったことで、すでに群衆のほとんどは立ち去っている。辺りでは、家畜品評会の関係者たちが後始末に追われていた。
「よおし。これで、無事に全頭捕らえることができたようだな。——まずは礼を言わせてくれ、エルフの魔導師君。すばらしく的確かつ強力な捕縛魔法だった!」
そう言って団長は、咲季に向かって右手を差し出してきた。その姿、やっぱり、かなり
「私は、王国魔獣騎士団『
そう名乗ったヴォルタ団長は、古風で威厳ある口調とは裏腹に、腰まで届くほどの艶やかな
「あ、あの、私、サキエルといいます。正真正銘、まぎれもなくエルフの
「ほんでワイは、サキエル様の使い魔やらせてもうてる、カッシュいいますねん。まあ、そこらへんでよう見かける人畜無害のただの猫ですわ」
「……? おかしなことを言うなぁ、君たちは。まあいい、とにかくよろしく!」
固く握手を交わしつつ、ヴォルタは
「それにしても
カッシュの
「いや、我々はたまたま非番でね。今日は、身内だけで繁華街をぶらついていたのだよ。そうだ、私の妹たちを紹介しよう。——総員整列っ、自己紹介始め!」
ヴォルタの号令で、三人の
「えっとぉ、まずは、私から。次女のヴァニラ・ヴェルサーチです。よろしくねぇ、かわいいエルフさんとネコさん」
最初に、長い柄を持つ巨大な
「好きな食べ物はぁ、うーん、やっぱり
(ヴェルサーチ家いうたら、代々
(へえ、さすがなんでもよく知ってるのね、カッシュ)
カッシュと咲季は、気付かれないようにひそひそ話をした。
(ワータイガーっちゅう種族にはなあ、なんとなーく親しみを感じるねん)
(ふうん。トラ猫だから?)
「じゃ、つぎは私の番ね。三女のヴィヴィアン。ヴィヴィって呼んでね。いちおう、こっちのヴァニラとは双子同士だから」
続いて、死神のような
「んー、私はどっちかっていうと、
(固有スキルって、私の『超古代文字解読』みたいな特殊能力のこと?)
(ああ、せやな。攻撃特化型と、そうでないヤツがおるらしいんやけど)
(でもこの
咲季は、人は見かけと種族と職業によらないものだと考えを改めていた。
「よし、次!」
ヴォルタが、ただひとり緊張している
「はっ! 自分はヴェルチェスカ・ヴェルサーチであります! ヴェルサーチ家の四女にして、
と、直立不動で名乗りを上げるヴェルチェスカ。若々しく、真面目で活気にあふれている点は非常に好感が持てる。だが、それにしてもアホみたいに声がデカい。
またほかの姉たちに比べても、彼女は際立った褐色の肌をしている。その長い髪も縞模様で彩られており、
(ねえ、たしか彼女たち、今日は非番だって言ってたよね?)
(それやのに全員、
(そうね)
(あと、なんや『ヴ』の字がゲシュタルト崩壊してきたんはワイだけか?)
「ヴェルチェスカ、貴様の好物はなんだ?」
「自分は好き嫌いなくなんでもよく食べます!」
「得物の名は?」
「この
「物理攻撃の追加効果などの固有スキルは?」
「とくにありません! 精進いたしますっ!」
「よし、直れっ」
「はっ! 団長閣下!」
ヴォルタは、また咲季とカッシュの方に向き直って言った。
「以上が、
「は、はあ。ご、ご丁寧にご挨拶いただきまして、毎度痛み入りますことでございます……」
咲季はうつむき加減に恐縮しながら、わけのわからない言葉を返した。だがこれだけでも、完全初対面の相手と会話するのは、彼女にとっては奇跡に近かった。
「ところで、君たちはこの王都でなにを? 見たところ、旅の途中の様子だが」
「それがでんなあ、団長はん。ワイらちょいと困ったことになってまして……」
カッシュが切り出した、ちょうどその時である。彼らの背後から、男の野太い呼び声が聞こえた。
「おいコラ、そこの姉ちゃん! 一体どうしてくれるんだ?」
続く
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