第二十話 キレイなバラには、キバがあるっ!
「カッシュ、
「半獣人の
カッシュの言葉を聞いて、咲季はあらためて彼女らの姿を見た。駆け抜けていった
彼女らの頭部には、
(そっか。女の人とだったら、私でもそんなに緊張せずに話せるかも……)
そんなことを考えながら、咲季は勇壮な
「ねえ、
「さあ、それはどうやろな」
王国中にその名を轟かせている「
「ヴァニラ! ヴィヴィ!
そう声を上げた団長に、ふたりの
「えーっ? それじゃあどうしろっていうのよぉ」
「ま、素手で止めるしかないってことじゃない?」
ひとりの
「さあ来いっ!」
ブルルルッ!
血気盛んに走り回っていた牛は、その一撃で瞬く間に気絶してしまった。こうして団長は、手当たりしだいに暴れ牛たちに立ち向かっていった。
「ヒュウ♪ さっすが、ヴォルタ姉さん」
「ほらヴェルチェスカ、あなたも早く!」
「ハァッ、す、すみません、ヴァニラ
息を切らせながら、ヴェルチェスカと呼ばれた
「絶対牛を殺すなよ、ヴェルチェスカ!」
「はっ、承知いたしました、団長閣下!」
こうして、総勢四名の
「こらぁアカン、牛たちが散らばっていってまうで!」
カッシュはあわてて叫んだ。いまのところ、
「カッシュ、私に考えがある。牛たちを一か所に誘導して!」
「ああ? どないして集めろっちゅうねん?」
咲季は、広場の一角に掲げられていた王国の国旗に手をかけて引き剥がした。それは、星型の紋章が入った真紅の生地の旗であった。彼女はその真っ赤な国旗を、手早くカッシュの首元に結びつけた。
「ほら、これで行って!」
「ちょ、待ちぃなサキ! ジブン、猫使いが荒すぎちゃうか?」
そうボヤきながら、カッシュは赤い旗をマントのように
「ほれほれ! ウッシさんこっちら、やで!」
暴れ牛たちは、目の前に現れたすばしっこい小さな生き物に困惑し、続けて怒りを露わにした。カッシュはまるで
「……あった、これだ!」
咲季はマドラガダラの
「ム、なんだあれは?」
「おい行くでぇ、サキっ!」
暴れ牛たちをまとめて引き連れてきたカッシュが、まっすぐ咲季の方へと向かってくる。
「
つぎの瞬間、その広場にいた誰もが思いもよらないことが起こった。大砲の弾丸のように猛スピードで突進してきた十頭あまりの暴れ牛たちが、一斉に動きを止めたのである。牛たちは、まるで精巧な
「こ、これは……?」
団長は止まってしまった牛の方に近づき、その体に触れてみた。よく見ると牛たちはみな、透明なクリスタルのような柱の中に閉じ込められていたのである。
ワアアアアッ!
すべての暴れ牛たちが沈黙し、騒ぎが収束したことが明らかになると、広場の群衆たちは割れんばかりの歓声と拍手を持って彼女たちを讃えた。幸いなことに、暴れ牛によって人々が受けた被害は最小限にとどめられた様子だった。
「君がやったのか、この魔法を?」
団長の問いかけに、咲季は黙ったまま頷いて答えた。
そのとき咲季は、
「これは『
「一時的に敵の動きを無力化できる魔法って、たぶんこれが最適だからね。でも、一度に十頭もまとめてかけられるとは思わなかったけど」
カッシュの言葉に対しては、いつもの調子で返事をした咲季であった。
「とにかく助かったよ。……ところで、君たちはいったい?」
「あー、ワイらは通りすがりのエルフの魔導師と、その使い魔のしがない猫でんねん。あんま気にせんとくんなはれ。……あ、せや。この牛たち、いまはクリスタルの中で気絶しとるけど、このままやと息が詰まって死んでしまうさかい、
「うむ、承知した。ヴァニラ、ヴィヴィ、ヴェルチェスカ!」
「はぁ〜い」
「なあに?」
「お呼びでありますか、団長閣下!」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます