第十六話 王っ都どっこいアリアスティーン!

「さ、カッシュ。アリアスティーンに着いたわよ」

「はぁ? ちょちょちょっと待ちぃーな、サキ!」


 平然と歩みを進めようとする咲季に対し、カッシュはあわてて声を上げた。


「なによ」


「なによとちゃうわ! いくらなんでも、展開が急すぎるやろ。もしかして一話イッコ読み飛ばしたんちゃうかって、読者の人たちがビビってはるやないか」


「そんなこと言ったって、ちゃんと間違いなく目的地に到着したんだからしょうがないじゃない」


「そっちこそ、何言うとんねん。そんなカンタンに王都に着くわけが…………って、ホンマや!」


 カッシュが目の前の扉を開けたその先には、多くの人々が行き交う大通りが広がっていた。老若男女、さまざまな人種の姿が目に映るが、その誰もがどこか洗練された印象をかもし出している。そしてはるか前方にそびえ立つのは、現国王・アリアス四世陛下の住まう、なじみ深い大王宮ロイヤルパレス。ここは、まごうことなく王都アリアスティーンの中心街セントラルであった。


「さっきまで、あない辺鄙へんぴな温泉の村におったっちゅうのに、これはいったいどういうことなんや……?」


 文字どおり、魔法にでもかけられたかのように呆然と立ち尽くすカッシュ。そんなトラ猫に、少々あきれた口調でセーラー服の女子高生・咲季が問いかけた。


「ひょっとしてカッシュ、ホントに転移魔法陣テレポーターのこと知らなかったの?」

転移魔法陣テレポーターやて?」


 確かに、先ほどまでふたりがいたのは、北の辺境・ホッタンの村からさほど離れてはいない探索者ギルドの番屋だった。咲季は手馴れた様子でギルドの受付に話を通すと、その番屋の一室に用意されていた魔法陣を使って、アリアスティーンへの転移を実行したというわけである。


「ほぉー、そないなエラいモンができたんやなぁ……。ワイとしたことが、ぜんぜん知らんかったわ」


「つい最近、実装されたばかりの機能システムだからね。使用料がかなり高額なのが難点だけど、大きな街の中心地とか迷宮の入口に手っ取り早く安全に移動できるから、すごく便利よ」


 そう言いながら、咲季はカッシュとともに大通りへと踏み出した。どうやら彼女はホッタンの村を出る際に、転移魔法陣テレポーターが新設された探索者ギルドの場所を、あらかじめ村人から聞いていたらしい。むろん、ホッタンで多額の謝礼金を得ていなければ、この最新鋭の転移魔法陣テレポーター借用レンタルすることもかなうまい。

 この『ドラゴンファンタジスタ2』のヘビープレイヤーを自称する咲季だが、そういった彼女の抜け目のなさと決断力と行動力に、この世界ゲームで数百年生きている魔導猫カッシュでさえも感心せずにはいられなかった。


「ほいで、王都ココでいったい何するん?」


「まあ、情報集めもしたいんだけどそのまえに、ア・レ」


「アレ?」


 咲季はカッシュに向かって金貨の袋をジャラつかせながら、楽しげな笑みを浮かべた。


「せっかく『ドラファン2』の世界に来たんだもん。最強の熟練魔導師マスターウィザードにふさわしい服装スタイルでキメてみたいじゃない?」




 咲季とカッシュは、華やかな賑わいを見せるアリアスティーンの大通りを興味深く見て回った。ここには、迷宮探検を生業なりわいとする、いわゆる「探索者」たちのための武器や防具のほか、さまざまな装備品アイテムを売り買いする商店ショップが軒を並べていた。


「確かにワイも、サキのそん制服カッコは、あんまりこの世界ゲームにはそぐわんなあとはうすうす思てたけどな」

「でしょ? どんな場所とこでも、やっぱり見た目って大事だと思うのよね」


 中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界を舞台にした『ドラゴンファンタジスタ2』であるが、基本的にこれといった服装規定ドレスコードというものは、ない。

 とはいえ、あまり突拍子のない格好で悪目立ちするのも考えものである。ただでさえ、絶対に人に知られてはいけない秘密を抱えているエルフ(偽)としては。


 そんな咲季は、商店街の中から最も大きく高級そうな店の前に立つと、迷うことなくその扉を開けた。


「当店にようこそ、エルフのお嬢様……でいらっしゃいますよね?」


 おそらく店主とおぼしき、恰幅かっぷくの良い男性がにこやかに話しかけてきた。咲季は軽く会釈をすると、そばにいたカッシュに目配せした。カッシュの方も、もはやすっかり慣れた様子で、店主に向かって挨拶をはじめた。


「ああ、ジャマするでご主人はん。このお方は、王都でも名高い熟練魔導師マスターウィザードのサキエル様や。ほんで、ワイは使い魔のカッシュな」


 いきなり関西弁で自己紹介を語り出したトラ猫に対し、とくに疑問を持つ様子もなくうなずく店主。アリアスティーンの老舗しにせ高級店ともなると、この程度の珍客には動じないようだ。加えて、咲季自身に備わっている「気品」のようなものを感じ取ったのかもしれない。


「左様でございますか。して、本日はどのような品をお求めに?」


 咲季から耳元へのささやきを受けたのち、カッシュは彼女の言葉に関西風味を加えて店主に伝えた。


「あー、サキエル様は探索者仕様の魔導師の服装を、帽子うえから履物したまでまるっと一式ご所望や。値段はなんぼでもかまへんさかい、とにかく丈夫で高級な商品ヤツを片っ端からチャッチャと持ってきとくんなはれ!」




続く


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