第十五話 ぜ〜んぶ美味しくいただきますので
「お待たせいたしました。それでは
ハグッ、ガツガツッ、ハムッ、ハムハムハム、ムォグムォグ、フムッ
テーブルについた村長がそう言い終わらないうちに、咲季は目の前の料理を両手を使って鷲掴みにし、そのままむさぼるように食べはじめた。
「あー、あの……」
グハッ、ムカフッ、フゴッ、ガッ、ムァグムァグ、ズズズッ、フハッ
肉を、魚を、野菜を、パンを、スープを、代わるがわるその口の中へとひっきりなしに運んでいく。村長以下、食卓に居並ぶ村人たちはみな、咲季のその鬼気迫る食いっぷりにただただ驚愕した。
咲季の隣の席に座っていたカッシュは、唾を飲んでその様子を見つめながら、
「——そない言うたかて、いったいどうすんねん?」
がっくりと肩を落として落ち込む咲季に、カッシュはいつになく真剣な調子で問いかけた。
「あんなあ、
「……わかってるわよ」
カッシュの言葉に、咲季はゆっくりと顔を上げた。
「さっき言ってたでしょ? ようするに、『欲望』が満たされればいいんだって」
そう言うと咲季は、なにかを吹っ切った様子で部屋着から
(いくらなんでもムチャやで、サキ……)
フードファイターもかくやとばかりの、うら若き美少女エルフの大食い
ンガブゥッ、ンカウッ、コワッチコワッチ、ム、ンゴックゥ、フウッ
とは言うものの、咲季の正体は魔性の権化たる
咲季に注がれる、村人たちからの奇異の視線を敏感に感じ取ったカッシュは、軽く咳払いをして村長に語りかけた。
「あー、村長はん。なんも心配することおまへんで。こう見えてサキエル様は、もんのすごっ慎重で用意周到なお人でしてな。万が一、旅の途中に食いっぱぐれたときにも困らんように、食いだめしてはるんですわ」
「ははあ、なるほど……。それにしても、なんとも
「さぁさぁそれですわ! 村長はん」
カッシュは、ここぞとばかりに畳みかけた。
「じつはサキエル様は、幼少の頃から苦労に苦労を重ねはったお方ですねん。というのも、経済的に恵まれん家にお生まれになって、親からはごっつい
「そうでしたか」
「そうですねん。……みんな
グッと飲み干したエールのジョッキをテーブルに叩きつけると、カッシュはさらに続けた。
「しかしやな、そういう
「フガ」
咲季はこのトラ猫の演説を真横で聴きながら、よくもまあここまで口から出まかせがスラスラあふれてくるものだと感心した。食卓を見回すと、なんと感動のあまり目頭を押さえている者までいたくらいである。
「そういうことでしたら、もう存分にお召し上がりください。大したものはございませんが」
「おおきにおおきに、村長はん……。あ、エールもう一杯。あと、
こうして、ホッタンの村を救った魔導師と魔導猫に対する感謝の
そして、翌日の朝。咲季とカッシュは、村長ら多くの人びとに見送られながらホッタンの村を後にした。
「小っさい村やが、食いもんはまあまあやったな。和菓子がないんはしゃあないけど」
「私は、ようやくお腹がこなれてきたわよ。おかげで、
テーブルに供された食べ物の大半を平らげ、まるで臨月の妊婦のように丸いお腹となっていた咲季だったが、一晩かけてすっかり消化。彼女の
「まあ、謝礼の
「そうね!」
咲季は、
「……さて、サキエル様。これからどないしはるんや?」
「まずは情報。この
「いっちゃんデッカい街っちゅうと……?」
カッシュの問いに対して、咲季は南の方角を指差しながら力強く言った。
「もちろん、王都・アリアスティーンよ!」
続く
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